高まり続ける米国とイランの緊張
北朝鮮非核化問題については、オバマ大統領ができなかったことをするという意味でトランプ大統領の独自色が強い。
これまでアメリカを苦しめてきた中東問題については、アメリカ・ファーストに従ったトランプ流の対外政策の基本が如実に見える。まずアメリカ自身が中東で戦争をおこなうつもりはなく、同盟国の軍事力を強化し、アメリカが中東最大の脅威と考えるイランのイスラム体制に抗する体制を整えようとする。サウジアラビアに対する膨大な武器の売却やイスラエルへの軍事支援を強化している。
さらにイスラエルには、中東和平プロセスを成功させるため長く凍結されてきたエルサレムへの大使館の移転を実行し、占領地ゴラン高原をイスラエル領として承認するなどきわめてイスラエル寄りの政策を進めている。
さらに、オバマ大統領の下で国連常任理事国5カ国(米英仏ロ中)プラス独でイランと合意した2015年の核合意をアメリカは一方的に廃棄し、「最大限の圧力」政策として制裁を復活した。アメリカの制裁再導入により、本来核合意を維持し制裁を解除していた諸国の企業もアメリカ国内での取引ができなくなることを恐れ、イランとの取引を控えることとなり、中国やロシア以外にイランとの取引(特に石油)をおこなう国は少なくなった。
この結果イラン経済は大きな打撃を受けた。米イラン双方の無人偵察ドローンの撃墜やタンカーへの攻撃・拿捕などホルムズ海峡の安全が脅かされ、米イランの緊張は高まっている。
独りよがりな政策のツケが回ってくる
また今年9月にはサウジアラビアの石油施設がドローンにより攻撃を受け、アメリカはイランの行動であるとして制裁のさらなる強化に向かっている。
中東にトランプのアメリカ・ファースト政策の限界を見、アメリカのさらなる威信の失墜を見る。アメリカはペルシャ湾、ホルムズ海峡地域の航行の安全を監視するための有志連合構想を提起したが、これは一層の緊張を喚起することになるだろうし、まかり間違えばイランとの軍事衝突につながっていく懸念もある。
確かに自国のタンカーは自国が守れ、というトランプのツイートは正しい問題指摘かもしれない。しかしホルムズ海峡をめぐる緊張はアメリカがイランとの核合意から一方的に撤退したところから始まっており、果たしてアメリカの呼びかけに応えて有志連合に加わる国がどれほどあるのだろうか。独りよがりな政策のつけは、アメリカの指導者としての一層の威信低下につながりそうだ。
そして、米中関係の悪化、米中貿易戦争の長期化は、これまでアメリカを中心に構築されてきたリベラルな国際秩序の崩壊につながる契機にもなる。