「東京」以外の人間は1週間前に知っていた?
組織委の武藤敏郎事務総長から都に連絡があり、小池知事が初めて知ることとなったのがIOC発表の前日、10月15日。IOC調整委員会のジョン・コーツ委員長からの催促がきっかけだった。催促の内容は「札幌で調整しろ」とのこと。ではこの要求はいつからされていたのだろうか。
組織委は10月8日に、10日から解禁のはずだった五輪チケットの2次抽選販売を無期限延期にしている。理由は明かされないままだが、この頃すでにIOCから話は入っていたと思われる。実際、森会長は10月9日に安倍晋三首相と、10日には橋本聖子五輪相、そして札幌市の秋元克広市長と会っている。ここで札幌案の話がされていたと見るのが妥当ではないか。
しかしなぜか小池知事には何も伝えられないまま、なぜか一週間もの間に何の手も打たれないまま「10月16日」を迎えたのである。
“小池知事抜き”で事が進んだ理由
小池知事だけが外されたまま、事が進められてしまった理由。その一端は2016年の前回都知事選で小池知事が初当選して以降、対抗馬を擁立して敗れ「野党」になった自民党が激しく敵対する、東京都ならではの政治背景にある。
一部報道では、都議会自民党の何名かはIOCの札幌変更案について事前に知っていたとされている。さらにさかのぼって9月22日、札幌ドームで行われたラグビーの試合を、森会長とその都議らが観戦していたことも確認されている。
今のところ真相は闇の中だが、IOCが突き付けてきている札幌案は、東京都にとっては不利益でしかない。都民の代表として都民益を追求すべき立場にある自民都議の一部がそれを知っていて放置したとすれば、それこそ大変なことだ。
いずれにせよ、小池知事だけが知らされていなかったことは決して偶然ではない。何らかの政治的意図があったことは明らかだ。言うまでもなく、オリンピック・パラリンピックは平和の祭典。政治的利用はタブーであることが五輪憲章に明記されている。しかし不幸にもその政治と政局に、マラソン・競歩は巻き込まれてしまったのだ。
札幌開催の場合、追加経費は試算で340億円
ピンチに陥ったかのように見えた小池知事。政治的に不利な状況でこそ、世論を味方につけなければならない。東京都の主張を繰り広げるにあたっては、科学的データや専門家の知見といった裏付けはもちろんのこと、都民国民の共感が必要十分条件であり、そのための世論喚起が必須だ。
10月25日の朝を皮切りに、小池知事は次々と各種メディアで東京都の主張を訴えた。この日の午後にはコーツ委員長との会談があり、あらためて「札幌案」を突き付けられるも、攻勢を緩めることなく東京開催を訴え続けた。