ご近所こそが出現の空間
そのときに大事なこととして、彼女は「多数性(複数性)」と「出現の空間(現れの空間)」を指摘します。「多種多様な人びとがいるという人間の多数性は、活動と言論がともに成り立つ基本的条件である」とし、活動において多様な考えや意見が不可欠だと指摘しています。そのうえで、それらの人が偶然的に出会う場所である「出現の空間」が大事だとも別の箇所で述べています。ご近所付き合いや地域活動はそういう場なのです。
とはいえ、ご近所付き合いが苦手な人はどうすればいいのでしょうか。大事なのは認識を変えることです。そういう人は往々にして地域コミュニティーに対する偏見が見受けられます。閉鎖的であるとか、自由に発言しにくいとか。立場もそうです。会社ならば地位や肩書で周りは尊重してくれて、ものもいいやすい。しかし、地域社会ではそれがないから苦手意識が生まれる。その認識を転換するのです。
アレントによると、活動においては社会的属性は取り払うべきもので、そうした場ではむしろ個性的で自由な発想や意見が歓迎されるといいます。したがって素の自分を出しやすい環境なのです。それがわかれば苦手意識が消えて楽しめるようになるのではないでしょうか。
実は私が主宰する「哲学カフェ」も似ていて、参加者は基本的に名前や肩書をさらさず匿名で発言、対話します。加えて「全否定しない」「人の話をよく聞く」「難しい言葉を使わない」のルールがあります。このルールはご近所や地域コミュニティーでも同じです。さあ、臆することなく飛び込みましょう。