「上司が仕事の進め方についてちゃんと教えてくれない」
このうち「給与が低い」「企業の将来性」は、入社前に調べておけば事前にわかることであり、入社後にそれを言い出すのは社員側に問題があるように見受けられる。
「拘束時間が長い」に関しては、仮に就活説明会で「当社の残業時間は短い」とアピールされていたとしたら、それは明らかに反則であり、退職したのは企業側に責任がある。
では、「やりがいを感じない」「人間関係が悪かった」はどうだろうか。長年、人事の現場を取材していると、この2点が若い社員が辞める大きな理由だと感じる。
「やりがいを感じない」という新人はどのくらいいるのか。
マンパワーグループが入社2年目までの22~27歳の正社員に聞いた調査(2019年9月25日)によると、「やりがいを感じない」が11.8%、「ほとんどやりがいを感じない」が19.8%で計31.6%もいる。
同調査ではさらに掘り下げて、どんなときにやりがいを感じるかについて聞いている。そのベスト3は「仕事の成果を認められる」(37.6%)、「仕事をやり遂げる」(34.7%)、「自分の成長を感じる」(34.7%)である。
これは、逆に言えば、社員側が「仕事の成果が認められない、やり遂げられない、成長を感じられない」と感じれば、たちまちやりがいが失われ、離職に発展してしまうということだろう。
そしてこの問題を先ほどの離職原因である「人間関係が悪かった」と合わせて考えると「新人の指導に当たる職場の先輩や上司との関係がうまくいっていない」ことに原因がある可能性が高い。
実際に新入社員が退職する理由としては先輩や上司との関係悪化というものが目立つ。製薬会社の人事課長はこう語る。
「なぜ辞めたいのか、と聞くと、最初は誰もが会社の組織や風土が自分には合わないとか、今の仕事が自分に向いていないとか、抽象的な理由を言います。あるいは本当かどうかわかりませんが『他にやりたい仕事がある』とキッパリ言う人がいます。でも詳しく話を聞いていくと『上司や先輩とうまくやっていく自信がありません』、『ちゃんと仕事の進め方について教えてくれない』といった上司とのトラブルが原因で辞めたいと言うのです」
上司に叱られたことをきっかけに辞めた製薬会社の新人23歳
例えば、この製薬会社の入社1年目のA氏(23歳)は、上司の課長に命じられて顧客の病院の医師との商談に赴いた。その席で医師から専門の薬剤についてあれこれと尋ねられたが、それほど知識のないA氏はしどろもどろの受け答えに終始した。たまりかねた医師は「たいした知識もないのによく商談にきたものだ。あんた、私をバカにしているのか、もう一度出直して来い」と大きな声で怒られたという。
その日は叱られたショックで会社に戻る気が失せ、直帰。翌日、医師に言われた薬剤の情報を調べていると、課長がやってきて「お前なにやってんだ。○○先生から電話が来てカンカンに怒っていたぞ」と叱りつけられたという。