「課長が教えてくれなかったせいで顧客に叱られたんです」
ムッとなったA氏は「薬の情報について課長は教えてくれませんでしたよね。そのせいで先生に叱られたんです。だから今調べているんです」と返した。
すると課長は「お前なあ、そんなことは先輩の○○に聞けばいいじゃないか、事前に調べて訪問するのは常識だろう。第一、どうして昨日のうちに報告しないんだ。お前のせいで謝罪に行かなければいけないだろ」と、怒鳴られた。
この後、A氏は課長に退職届を出したという。辞める覚悟のA氏は人事課長にも上司の態度をこうなじったという。
「営業の研修を受けて薬剤の知識はそれなりに持っているつもりです。担当する専門領域の薬剤の処方などはある程度先輩や上司から指導を受けましたが、個別の薬剤については医師にどのように説明するのか教わっていません。新人に対して丁寧にわかりやすく指導するのが指導役の先輩や上司の役割ではないんですか。自分なりに必死に勉強しているのに、うちの会社ではそれをフォローする仕組みが欠けているのではないですか。それなのになぜパワハラを受けないといけないんですか」
パワハラかどうかはともかく、指導体制が確立していないというA氏の理屈も確かにそうかもしれないと人事課長は思った。上司の教育や接し方にも問題があるが、その一方で今どきの新入社員の特性を改めて知らされた思いだったという。
「最近の新入社員は性格的にはガツガツしていなくて、仕事をソツなくこなす、いわゆる“良い子”が多い。5段階の成績ではオール4のイメージ。教科書通りにやることはすごく得意だし、ある意味で優秀です。ただし、“失敗を恐れる優等生”でもある。だから教えてもらっていないことをやることを極端に嫌がる。何かミスをして叱っても『教えてもらっていませんから』と平気で言う。それでいて相手の懐に飛び込むのも下手。へりくだって教えてくださいと言うのが嫌だし、教えてくれないのも嫌なのです」(人事課長)
体育会出身の上司と新人とのトラブルが目立つ
教えられた仕事は忠実にこなすのだが、失敗したくないので教えられていない仕事に挑戦しようとしない。それをやってミスしても「教えなかったあなたが悪い」と、自分の失敗を認めない。
その結果、上司や先輩とこじれると、簡単に退職してしまう。こんな新入社員と、「先輩の1を聞いて10を知れ」とか「失敗を重ねてこそ成長につながる」などと教えられた上司世代と波長を合わせるのは難しいだろう。
実はこうした新人とのトラブルが「体育会出身の上司との間で目立つ」と語るのは小売業の人事部長だ。
「体育会出身の上司の多くは人一倍後輩の面倒をみます。体育会出身者は総じて素直です。大学時代、練習の中で何か失敗して先輩が注意すると『わかりました』と言って自分で何がいけなかったのか考えようとする。だから、後輩にもそうした素直さ・謙虚さを求め、きちんと応えた後輩をかわいがります」
「しかし、新人が店舗の商品の仕入れ数を間違える失敗をして『お前の責任だからな、気をつけろ』と叱ると『そこまで教えてもらっていいません』と言い返される。自分の責任と認めない態度に憤慨するのです。大概の上司は言い訳されるのが嫌いなのですが、体育会系の上司ほど反発されると怒ってしまい、教育もしたくないし、二度とこいつとは仕事をしたくないと思ってしまう。その結果、ほったらかしにして新人が職場で浮いてしまい、辞めてしまう」