米政府高官が黎智英氏と面会するということは、すなわちトランプ政権が中国政府に対して完全なる敵対関係を示したことになるなどと単純に報じる向きもあるが、ここで気をつけなければならないのは、彼ら「トランプ政権内にあるネオコン系高官」の動きは、必ずしもトランプ大統領の意向とは同じではないということだ。

その証拠に、トランプ大統領は香港の民主化運動にはあまり興味がないようで、当初は香港の抗議運動を「反乱」とさえ呼んでいたし、黎智英氏とも親しいジョン・ボルトン国家安全保障補佐官も先日解任されている。そもそも、対外不干渉主義のトランプ大統領は、ネオコンとは一切相いれない考えの持ち主だ。そんなネオコン系の人々を何人も自分の政権内に入れているのは、「友は近くに置け、敵はもっと近くに置け」というトランプ大統領一流の戦略であろうと推察する。

「カラー革命」を恐れる中国共産党

一方の習政権は、何度も香港のデモの背後にはCIAがいると述べており、香港の分離独立を狙っているのではないかと勘ぐっている。実は彼らは、米情報機関が実行する「カラー革命」を恐れているのである。

「カラー革命」とは、2000年代に東欧から中央アジアの国々でCIAが主導して行った一連の政権転覆劇である。この「カラー革命」では、前述のNEDも深く関与しており、例えば過去にはベネズエラやキューバ反政府勢力への資金援助をも行っていた。NEDの初代理事長はかつて、「私たちが今日やっていることの多くは、25年前にCIAが秘密裏にやっていたことである」と述べたこともある(ワシントン・ポスト、1991年9月22日 "Innocence Abroad: The New World of Spyless Coups")。

実際、中国政府系メディアは、香港のデモに紛れていた欧米系白人グループを撮影した写真を流し、「彼らはCIA工作員だ」と主張していたし、またデモ隊の中にも実際に米英の国旗を振り回している人々がいたことが、この中国側の指摘に一定の「信頼性」を与えている部分もあるだろう。当然、「民主化運動支持派」はこれをバカバカしい陰謀論だとして非難しているが、互いに激しい情報戦が行われていることは間違いない。

こんな背景の中で、前述の香港メディア王の黎智英氏は「CIA工作員」などというありがたくない汚名を着せさせられてしまったわけだが、しかしその一方で、黎氏の周辺には「あるいは?」と思わせる人々がいるのもまた確かである。