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貢献する方法を何通りも準備する

ただし、テント内のメンバーを増やすこと自体を目的とするのは意味のないことです。代々続いている優良なファミリービジネスを研究してきてわかったのは、テント内に招き入れたファミリーのメンバー一人ひとりに、有意義な方法で貢献する準備と、意志と、能力を持たせることが最も大事であるということです。この三つはどれが欠けても悲惨な結果を招くことにつながります。

次のように考えてみていただければわかるでしょう。後継者が「貢献する準備ができていて意志もあるが能力がない人」だった場合。あるいは、「準備はできていて能力はあるが意志がない人」である場合、さらに「意志も能力もあるが準備ができていない」人である場合。準備、意志、能力があってこそファミリービジネスに貢献できるのです。

正しいかたちでビッグテント・アプローチを実践しているファミリーは「貢献の道筋」をきちんと設計しています。その道筋は一つではありません。エグゼクティブという役割を通した貢献、マネジャーという役割を通した貢献、新規ビジネスを通じた貢献、ファミリーオフィスという役割を通した貢献、ファミリーガバナンスを通した貢献、ビジネスガバナンスを通した貢献、あるいは慈善活動を通しての貢献などさまざまですこれらの各役割には、明確な条件、責任、そして報酬が伴います。それゆえ冒頭に書いたように慎重に進めていく必要があるのです。

テントの内側にいる事業に直接関与していないメンバーが、たとえばファミリーオフィスやビジネスガバナンスを通じて貢献できることを理解すると、自分たちの価値を感じることができます。同様に、結婚を通じて新たに一族に加わったメンバーも、たとえばファミリーで取り組んでいる慈善活動に参加する機会があればファミリーの一員であることを感じられます。あるいは、次世代のメンバーも、新しいビジネスを通じて貢献できるかもしれないと思うと、家業を通じて起業家的な活動ができるのではないか、とやる気になるかもしれません。いずれにしても、それぞれの環境に最適な役割を最適な方法で提供できるようにするための準備、意思、能力が必要になってきます。

世代交代に備える学習サイクル

ファミリービジネスにおいて次世代のメンバーに事業とファミリーにおける役割を引き継ぐ際に役に立つエビデンスに根差した理論的フレームワークを、あと二つ紹介しましょう。

組織レベルの問題と個人レベルの問題をリンクするフレームワークが、4Lフレームワークです。4Lは個人のライフサイクル全体で必要な学習を指します。L1は個人がビジネスについて学ぶ段階です。現役のリーダーは、次世代を幼い頃からファミリーの事業に触れさせ、それがファミリーにおいてどんな役割を果たしているかを理解させるとよいでしょう。家族の役割を評価する機会を提供するのです。現役のリーダーはできる限り、ビジネスにおいて次世代が果たしうる肯定的な側面を見せることが大切です。最も望ましいのは、次世代が必要な学歴を取得した後、一定期間別の会社で働き「他の人のお金で失敗させてもらう」だけでなく、信用、経験、そして人脈を獲得することです。