日本企業の9割以上といわれるファミリービジネスにおいて後継者選びは死活問題だ。その候補をどうやって選び、教育し、世代交代するのか。後継者でないファミリーメンバーの役割とは何か。ファミリービジネス研究の第一人者であるジャスティン・クレイグ教授が、後継者選びと後継者教育に役立つフレームワークを紹介する。
写真=iStock.com/Solovyova
※写真はイメージです

“テント”に入っていないファミリーをどうするか

ファミリービジネスが成長するにつれて、ファミリーメンバーの意味のある関与とエンゲージメントが課題となります。ある賢明なファミリービジネスリーダーは次のように述べています。「地位と富が敵となる」。これは、後継者の地位にある者が当たり前のようにファミリーの富を受け継ぐことへの警鐘です。後継者はその「地位と富」を自ら獲得しなくてはなりません。その点で成功しているファミリーに共通しているのは、「ビッグテント・アプローチ」です(これはファミリービジネス研究者のケン・ムーアによる造語です)。

ファミリーのリーダーは、適切な教育を施された家族の中、つまり「テント内」のメンバーが増えることを好みます。テント外のメンバーは、テント内部で何が起こっているかわからず、意図せずして好ましくない行動をとる可能性があるからです。とはいえ、テント内を重視するアプローチは、次世代のメンバーや結婚して新たに家族になるメンバーに強いメッセージを送ることになるため、慎重に進めていく必要があります。

世界中でビジネスに携わるファミリーが加速している中、それぞれの家族が自分たちに合った「ビッグテント・アプローチ」を模索し、ファミリーメンバーが複雑でやりがいのあるビジネス活動に有意義に関与し、貢献できる方法についてのガイドラインを作っています。

わたしが講義や講演などを通じてこのビッグテント・アプローチの考え方を説明するとき、その概念は国や視聴者に関係なく、直感的に受け入れてもらえますが、いちばんピンときてもらえるのは「テントから離れている」人のことについて具体的にお話するときです。

たとえば、ある創業者は、世代を超えて続くファミリービジネスを残したいと考えていましたが、事業承継については二人の息子の妻には一切口を挟ませないと決めていました。息子の妻たちは孫の母親であり、したがって将来ビジネスを継ぐ孫たちに重要な影響を与えており、「テントの中に連れて行く」ほうが後々いいのではないですかという話をすると、彼らは納得して息子の妻たちに、経営とは関係ないけれども、ファミリーにとって重要な役割を与えることを検討しはじめました。この話をしてもピンとこない人には、事業承継だけでなく、家族の大事な問題を話し合う場から締め出されている配偶者たちがいることをお話しします。

ビッグテント・アプローチ
ファミリーメンバーそれぞれに活躍の場を与える「ビッグテント・アプローチ」