トップが変わっても、機能する体制を築いた鈴木氏
また、人手不足が深刻化している中にあっても同社は国内コンビニの新規出店を増やすことで、売り上げの増加を実現した。これは、同社のコンビニエンスストア事業のブランド・ロイヤルティの強さを示している。見方を変えれば、セブン-イレブンの商品は、経営トップが変わっても、多くの消費者から強く支持されつづけているということだ。
それに加えて、海外のコンビニエンスストア事業も伸びている。特に米国では、堅調な個人消費が支えとなり、既存店舗の売り上げが増加している。それに加え、米スノコからの店舗取得もプラスに働いている。
こうした増益要因の多くは、前トップの鈴木敏文氏の功績によるものだ。鈴木氏は、セブン&アイの組織を整備することを通して、持続的にコンビニエンスストアなどの利益率改善が目指される体制確立に取り組んだ。その上で、鈴木氏は商品開発や物流の効率化にも取り組み、組織全体が成長を目指して行動する風土(企業の文化)を醸成した。その功績ゆえに、鈴木氏は小売りのカリスマと呼ばれた。
同氏が事業体制を確立できたからこそ、人事案をめぐる対立から鈴木氏が経営トップを退いた後も、コンビニエンス事業の収益獲得が実現できている。言い換えれば、人々が特定の目的に向かって行動する環境の整備こそが、トップに求められる仕事だ。トップが変わったとしても、しっかりと組織が機能する体制を築いたことが、鈴木氏の最大の功績といってよいだろう。
セブンペイ失敗の原因
カリスマの失脚が、セブン&アイの組織全体を動揺させ、かなりの不安心理を植え付けたことは想像に難くない。「この人についていけば大丈夫」と思っていたリーダーがいなくなると、先行きどうすればよいか、わたしたちは不安になってしまう。トップ交代を境に、同社の組織は、落ち着きを失ってしまったといえる。
それがセブンペイの早期廃止の一因だ。組織全体の統率がままならない中で、同社はスマホ決済事業という新しい取り組みを、付随するリスクを十分に理解しないまま進めてしまった。
世界的に、キャッシュレス決済の範囲は拡大している。特に、スマートフォンを用いた資金決済(スマホ決済)は、中国を中心に、爆発的な勢いで世界に浸透してきた。わが国でも、SNSのLINE(ライン)が提供するラインペイなどが人気だ。これまで、電子マネー「nanaco(ナナコ)」や銀行サービスを通して消費者を囲い込んできたセブン&アイが、スマホ決済の開始によって、さらなる収益機会の獲得を重視したのは当然といえる。