早期のアプリ実用化という焦りが先走ってしまった

ただ、セブン&アイは新規プロジェクトを進めるにあたり、必要な方策をとらなかった。具体的には、客観的に自社のシステムの信頼性を確認せず、実用化に移ってしまった。

スマホ決済をはじめとする“フィンテック(金融と最新のテクノロジーの融合)”の分野では、スタートアップをはじめIT先端企業主導で変革が進んできた。世界の大手金融機関の多くがIT先端企業との関係強化や競合を重視しているのは、そのためだ。

それに対して、セブン&アイは自社の発想を中心にしてスマホアプリの開発を進めようとした。決済アプリで常識となっている「2段階認証」が導入されていなかったことは、同社がIT専門家の知見ではなく、自社の価値観に基づいて開発を進めてしまったことの裏返しだ。

見方を変えれば、セブン&アイでは、早期のアプリ実用化という一部のプレッシャーや焦りが先走ってしまった。その結果、ユーザーが安心して利用できるしっかりとしたシステムを構築するという最も重要なポイントが見落とされてしまった。

セブン&アイに求められる“組織のまとめ直し”

組織は一つにまとまらなければならない。特に、新しい取り組みを進める際には、組織に属する全員が目的を明確に理解し、何を行わなければならないかを把握している必要がある。言い換えれば、組織の実力は、「個々人の集中度×ヘッドカウント(人数)」だ。

異なる視点から考えると、この問題はコーポレートガバナンスに直結する。7月に投入されたセブンペイが9月で廃止されることは、同社にとって大きな痛手だ。最大の問題は、同社が利用者に不安と混乱、失望を与えてしまったことである。7月下旬には、同社のインターネット通販のIDがリセットされるなど、消費者はセブン&アイのシステムそのものへの不信感を強めている。不正アクセスを防ぐことができなかった代償は大きい。

同社は、アプリ実用化を焦る心理をいさめ、しっかりとしたシステムを作り上げなければならなかった。経営トップが、組織全体の向かうべき方向を示し、必要な取り組み(社外のノウハウを積極的に取り込むことなど)を指示し、それを徹底していれば、不正アクセスは避けられた可能性がある。