国に戦争をしてもらって補充品の兵器で儲ける、というのがこれまでの軍事ロビーの基本的な考え方だった。しかし、いまは国が戦争をしなくても、つまりアメリカ人が血を流さなくても、大統領の口先一つで兵器が売れる。軍需産業が潤う。これはトランプ大統領という異色のキャラクターが編み出した画期的な手法なのだ。
アメリカの軍事負担の「不公平さ」を恫喝交じりにアピールして、相手国に国防費の増額を迫り、自国の兵器輸出拡大につなげる。NATO加盟国や韓国、サウジアラビアなどの同盟国を狙い撃ちにしたトランプ大統領お得意のディールだが、当然、日本も例外ではない。
日本に無償でシーレーン防衛する義理はない
G20大阪サミットが開催された6月になって、トランプ大統領は日本の国防を揺るがす発言を繰り出してきた。1つはシーレーン(海上交通路)防衛についてである。
「(ホルムズ)海峡から中国は原油の91%、日本は62%、他の多くの国も同じように輸入している。なぜ我が国が何の見返りもなしに他国のためにシーレーンを守らなければならないのか」「(ホルムズ海峡の原油に依存する)こうした国々がいつも危険な旅を強いられている自国の船舶を自分たちで守るべきだ」
トランプ大統領はツイッターにこのように投稿した。シェールガス革命によって世界最大のエネルギー生産国になったアメリカにとって、中東原油の重要度は低下した。従ってアメリカが無償でシーレーン防衛する義理はない。ホルムズ海峡からの原油に依存している国が自分で守れ、という理屈だ。
日本の中東原油の依存率は8割以上だし、ホルムズ海峡からインド洋、マラッカ海峡、南シナ海に至るシーレーン防衛は、海洋進出を加速させている中国に対抗するうえでアメリカにとっても依然重要。つまり、トランプ大統領の呟きは無知と誤解に基づいた、いつも通りの思いつきでしかないのだが、日本にとっては青天の霹靂だ。
四方を海に囲まれた日本にとって、海上航路の安全確保はきわめて重要だ。ホルムズ海峡を通る日本の船舶の護衛は日米安保条約の対象ではないから、本来なら海上自衛隊が守るべきだが、憲法上の制約から自前の艦艇は派遣していない。米海軍に代わってシーレーン防衛を担う能力は海上自衛隊にはあると思うが、特措法制定や憲法改正などの法整備は避けて通れない。
シーレーン防衛の重要性をしっかり説明できれば国民の理解は得られるだろう。ただし、海上自衛隊が現実にホルムズ海峡で日本のタンカーを護衛するイメージは当面浮かんでこない。なぜなら、「応分の金を出すなり、兵器を買ってくれるならアメリカが守ってやるよ」がトランプ大統領の本音だからだ。
トランプ政権はホルムズ海峡を航行する民間船舶を護衛するための軍事的な有志連合結成を呼びかけている。有志連合に直接自衛隊を参加させるのか、それとも金だけ出すのか。日本政府としてはまずは決断を迫られる。