巨大倉庫は恒久的施設にあらず

アマゾン・ドット・コム社(以下、アマゾン)は、千葉県などに100%子会社のアマゾンジャパン合同会社(以下、アマゾンジャパン)傘下の巨大な配送センター(倉庫)を持ち、日本で日本人を顧客とした大規模なネット販売ビジネスを展開しています。しかし、アマゾン本社は日本政府に法人税をほとんど払っていません。

配送センターを経営する日本法人(合同会社)も、納付している法人税額は極めてわずかだと言われています。つまり、消費税を除くと、グループとしては日本にはほとんど税金を払っていないということです。その理由は以下のスキームによります。

外国企業が日本で事業を行う場合、日本が課税権を発動するためには、当該外国企業が日本に何らかの課税の根拠(恒久的施設、PE)を持っていることが条件となります。これは「PEなければ課税なし」という国際課税の最も重要なルールです。その中で「倉庫はPEには当たらない」(正確には「倉庫のさまざまな機能を活用した活動の全体が、準備的・補助的なものである場合には、PEには当たらない」)というのが当時の国際課税のルールで、日本の課税権には服さない、つまり法人税は負担しないということなのです。

2009年に東京国税局が、アマゾンの物流会社を調査した結果、単なる倉庫以上の業務が行われていると認定し、PEとして課税処分を行いました。この事件について、双方とも結果を公表していないので詳細は不明ですが、アマゾン側は納得せず日米間の相互協議となり、その結果、日本側の主張はほとんど認められず、法人税はわずかしか負担していないと言われています。

このような課税の状況はドイツ、フランスなどでも同様です。そこで、このビジネスモデルについてOECD・BEPS(※)でも大きな問題として検討されました。その結果、2015年秋に公表されたBEPS最終報告書では、「人為的にPEの認定を逃れることを防止するために、租税条約のPEの定義を変更する」(行動7)ことが勧告されました。

(※)多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(BEPS)に対処するため、OECD(経済開発協力機構)が2012年より立ち上げたプロジェクト。

日本はこの勧告に従って、PE認定の人為的な回避に対応すべく、「これまでは、倉庫は準備的・補助的な活動としてPEではないとされていたが、倉庫の活動が相互に補完的な活動を行う場合には、各場所を一体とみなして準備的・補助的な性格かどうかを判断する」と税制改正を行いました。これによりアマゾンの倉庫は実質的に判断してPEに認定され得ることになりました。

しかし、この国内法の規定はまだアマゾンに適用されていません。その理由は、日米租税条約がこれまでのままで改定されていないからです。日本では条約が法律の効力を上回るので、日米条約を改定しなければ、アマゾンには課税できないままなのです。早急に米国と交渉を行う必要があります。