「安くて良質」のPB商品をなぜ削減するのか
米アマゾンが売り上げ不振などを理由に、プライベートブランド(PB)商品の削減を進める模様だ。7月15日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「規制面の圧力を和らげるため、PB事業から完全に撤退する可能性についても協議している」と報じた。同紙によると、アマゾンは2020年時点で45の自社ブランドを展開し、24万3000点の商品を扱っている。この報道が事実であれば、アマゾンのビジネスモデルは大きな転換点を迎える。
足許、米国のIT先端企業の成長期待は低下している。一部ではレイオフも実施されている。アマゾンは“アマゾン・キラー”と呼ばれる競合企業の登場に直面している。競争は激化し、ネット通販などでアマゾンが競争優位性を維持することは難しい。脱グローバル化によって世界全体でコストプッシュ圧力が高まっていることも大きい。
アマゾンのPB事業は「Amazonベーシック」に代表されるように、安価で質の良い商品を数多く展開してきた。しかし、ネット通販を基礎に急成長を遂げたビジネスモデルは行き詰まりつつある。アマゾンは物流施設の運営を支えた労働力の削減など、大胆なコストカットを実行しなければならない。それは、米国経済の減速に無視できない負のインパクトを与える。その一方で、アマゾンは相対的に成長期待が高いクラウドコンピューティング事業の強化を加速し始めた。
世界の企業のサプライチェーン管理などのためにクラウドコンピューティングの利用需要は増える。ECからクラウドへ、アマゾンのビジネスモデルは大きく変わり始めた。より多くの需要を創出するために、アマゾンは宇宙開発も強化する。地球規模から宇宙規模へ、同社の“物流革命”は新たな局面に移行している。
物流革命で世界のサプライチェーンを変えたが…
アマゾンの業績懸念が高まっている。その一つの要因が、脱グローバル化だ。1994年7月に創業したアマゾンは、世界経済のグローバル化を追い風に急成長した。グローバル化によって国境のハードルは低下した。世界の経済運営の効率性は高まった。GDP(国内総生産)成長率の上昇と、低物価環境の同時進行が実現した。
その中で創業者のジェフ・ベゾスが着目したのが物流だ。ベゾスは、ネットワークテクノロジーを駆使することによって、経済活動に占める動線(人々の移動)の役割を引き下げることができると見抜いた。
オンライン書店を足掛かりにアマゾンは世界の物流を効率化した。その象徴的な取り組みがPB事業だ。アマゾンは、日用雑貨などのデザイン、設計、開発に取り組んだ。生産は、中国など最も低コストで生産できる企業に委託した。それを、世界各国の需要に合わせて迅速に最終消費地に届ける体制を整備した。
その上でアマゾンは大型の物流施設と最終顧客所在地の“ラスト・ワン・マイル”をつないだ。世界の消費者は、より迅速に、より安く、必要な商品を手に入れられるようになった。PB事業では生鮮食品も取り扱う。アマゾンの物流革命が世界のサプライチェーンにもたらしたインパクトは大きい。