淡泊な味わいのブロイラーには「タレ焼き」が合っていた

さらに時代がくだり、昭和30年代に入るとアメリカから低価格のブロイラーが本格的に輸入されるようになり、大衆的な焼き鳥店が一気に増えた。逆にいうと、それまで鶏肉はどちらかといえば高級品で、屋台や大衆的な飲み屋では、地域にもよるが、「焼きとん」(=もつ焼き。豚の内臓肉を焼いたもの)が提供されることが多かった。

このころに登場した大衆的な焼き鳥店が、いわゆる「赤提灯」と呼ばれる飲み屋であり、そこで食べられていた焼き鳥は、年配の方が言うとおり、おもにタレ焼きだったのではないかと推測される。昭和30年代を舞台にした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」で、三浦友和扮する町医者が焼き鳥をお土産にする印象的なシーンがあったが、あの焼き鳥はタレ焼きだったはずだ。なぜ、当時タレ焼きが主流だったのかといえば、そのほうがおいしいからである。

「ブロイラー」とは、1940年代のアメリカで食糧不足を解消するために、短期間で成長するように開発された肉用若鶏の通称だ。たまに誤解されるが、「ブロイラー」という品種の鶏がいるわけではない。「Broil(ブロイル)」は「あぶり焼き」という意味で、丸焼きに用いるのに適している小型の若鶏のことをこのように呼ぶようになったという。

鶏肉に限らず、食肉は一般的に飼育期間が長ければそれだけ肉に旨みがのるので、ブロイラーは肉質こそ柔らかいが、肉の味わい自体は淡泊だ。だから、素材の味をそのまま楽しむ塩焼きよりも、香ばしい風味が加わるタレ焼きのほうが適していたのである。

平成に入って登場した新ジャンル「高級焼き鳥」

なお、日本では1960年代からブロイラーの生産が本格化している。現在は50日間ほど飼育して、重量2.8kg程度で出荷するのが普通で、当時のアメリカ産ブロイラーに比べれば、格段に味がよくなっているはずだ。余談になるが、ブロイラーに対するイメージが悪いのか、「私はブロイラーを食べないで、『国産若鶏』を買っています」なんて人がたまにいるが、これも誤解であって、「国産若鶏」はほとんどがブロイラーである。

こうして、焼き鳥は「庶民の味」として長年親しまれてきた。いまでは焼き鳥の屋台こそだいぶ少なくなって寂しい限りだが、それでも大衆的な焼き鳥店は、たとえば東京では下町や私鉄沿線を中心に健在で、根強い人気をほこっている。

これら「大衆焼き鳥」に対して「高級焼き鳥」とでも呼ぶべきジャンルが誕生したのは、平成に入ってからだろう。それまでも比較的高単価の老舗焼き鳥店は存在していたが、この頃に生まれた高級焼き鳥店は、客単価が1万円以上。高級地鶏を使用し、その銘柄を前面に打ち出すという共通した特徴が見られる。