「美食化」に貢献した「地鶏」の普及

地鶏は、飼育の手間やコストの関係から流通量が一時期減っていたが、食の安全や高い品質を求める消費者のニーズを受け、この時期からふたたび注目されるようになった。1999年にはJAS法によって「地鶏」の規定が制定されている。詳細は省くが、ポイントは以下の4点だ。①在来種の血を50%以上引いている。②80日以上飼育する(現在は75日以上)。③28日目以降は平飼い。④28日目以降は1平方メートルあたりに10羽以下で飼育する。

要するに鶏の品種が指定されるうえに、飼育日数と飼育方法にも条件がつくから希少性もコストも高い。こうして生産された地鶏は、もともと個性が強い味わいであることに加え、飼育期間が長くて適度に運動もしているので、弾力がしっかりあって、旨みの強い高品質な鶏肉になるわけだ。

当時オープンした高級焼き鳥店の代名詞的存在が1987年に東京・阿佐谷で創業し、2001年に銀座に移転した「バードランド」だ。「奥久慈しゃも」の味わいにほれたオーナーの和田利弘氏が創業した。同店をはじめとした地鶏を使った高級焼き鳥店は、鶏の仕入れから下処理、串打ち、焼成、調味……と、すべての工程を徹底的に突き詰め、焼き鳥を「庶民の味」から「美食」の域まで昇華させたといえる。

「塩焼きで食べるのが通」という考えが広まる

まわり道になってしまったが、こうした高級店では、とくに正肉についてはタレ焼きよりも塩焼きで提供するケースが多い。地鶏自体の旨みが強いので、それをわかりやすく表現するためだろう。むろんタレ焼きをまったく出さないわけではないが、タレであっても大衆店のような大味なものでなく、鶏肉の味わいを生かすために繊細に調味している場合が多い。

高級焼き鳥がブームになると、消費者が持つ「焼き鳥=赤提灯」というイメージに変化が生じた。焼き台からもくもくと立ち上る煙にいぶされながら、ビールや安酒と一緒に頰張っていた焼き鳥を、高級店では高価な日本酒やワインとともに、コース仕立てで味わうのだから、「まったく別の食べもの」といっても大げさではないだろう。

高級店で焼き鳥を味わった消費者は、これまで食べる機会がなかった地鶏、そしてその塩焼きのおいしさに目覚めたはずだ。「おいしい焼き鳥は塩で食べるべき」、あるいは「通は塩で食べるもの」とインプットされた人も少なからずいると思われる。それをふまえて冒頭のリサーチを思い返すと、「食通」、あるいは「食通を気取りたい人」のほうが、塩焼きを好む傾向がうかがえた。少しいじわるな指摘だが、まんざら的外れでもないように感じる。