EUと対決すれば、有権者へのアピールになる

もっともEDPを回避するため、イタリア政府がバラマキ政策を修正するか、定かではない。コンテ首相自身と腹心のトリア経済財務相はEUとの協調を比較的重視しているが、一方で連立を組む2党、特にM5SはEUに対して強い敵愾心を持っている。EUからの圧力に屈すれば有権者への背信行為にもなるわけだ。

そうであるなら、EDPを受け入れて制裁金を払う方が、いっそ有権者に対するアピールにもなる。結果はどうあれ、EUによる理不尽と対決する姿を見せることができるためだ。5月の欧州議会選で第一党の座をレーガに奪われたM5Sにとって、自らがリードしてきたバラマキ政策の修正は簡単には受け入れられない。

その一方で、国取りを目指すレーガは鼻息が荒い。そもそもM5Sとレーガは、ともに反EUという点ではスタンスが一致していたが、党が目指す方向性としては相いれない関係である。先の欧州議会選で第一党となり躍進が続くレーガにとって、このタイミングはM5Sを政権から追い出す大きなチャンスとなっている。

ポピュリストたちの政争で、イタリア経済は破綻する

確かに、反EUや反移民といった過激な主張を除けば、同盟の政治的スタンスはかつて二大政党の一翼を担った中道右派政党であるフォルツァ・イタリア(FI)と近い。同盟がFIと連立を組むことができれば、ビジネスフレンドリーな政権が成立したとして産業界の支持を得られる可能性も高い。

今般のEUによるEDPの手続き開始は同盟に有利な形で政界再編を図りたいサルビーニ副首相とって、文字通り「渡りに船」となる可能性がある。M5Sが公約にこだわりコンテ政権とEUとの対立が激化するほど、政権が瓦解に向かい解散総選挙への道が開けるためである。

このようにポピュリストが国取り合戦を繰り広げる限り、イタリアはEUとモメ続ける。モメればモメるほど、金融市場では長期金利が上昇し、景気に対する悪影響も強まる。イタリア経済の再生を謳うポピュリストたちであるが、結局は政争に邁進し、イタリア経済をむしばんでいるにすぎない。

イタリアのケースは、現実を直視せずに甘い言葉をささやくポピュリストたちに国の将来を委ねても、破綻が早まるだけであるという厳しい現実をわれわれに見せつけている。巨額の公的債務を抱えるわが国にとって、イタリアの出来事は決して対岸の火事ではないことを肝に銘じるべきだろう。

(写真=時事通信フォト)
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