「ホストはつらいよ」を表すような歌も

ちなみに職業柄でしょうか、僕は20代でバリバリ現役ホストをしていた頃の情景を思い浮かべてしまいました。ホストはとにかく「記念日好き」なんです。お客様との間に起こる小さな出来事を大切にし、「記念日だね」と意味付けをします。「今日は君と初めて会った日だよね」「今日は初めてシャンパンを入れてくれたシャンパン記念日だね」といった具合に。

この歌を作った時、まさか俵さんがホストを想定していたはずがありませんが、僕は「記念日」と聞くだけで、ホストとお客様の間を行き交う甘いセリフを想像してしまいます。

他にも、こんな歌があります。先ほどのシャンパン記念日に続き、ホストクラブを思い浮かべてしまう歌です。

何してる? ねぇ今何を思ってる? 問いだけがある恋は亡骸
君を待つことなくなりて快晴の土曜も雨の火曜も同じ

完全に、売れないホストのむなしさを歌っている! と思ってしまいました。僕たちの世界では、お客様に一度も指名されなかった夜のことを「お茶をひく」というんですが、この歌からはお茶をひいてるダメホストが浮かびました。お客様にLINEを送っても既読にすらならない。店の裏でスマホを握りしめている惨めなホストの風景は日常茶飯事です。

ホストなら誰しも、この歌を読めば、「めっちゃわかる!!」と、前のめりになってしまうのではないでしょうか。ホストはフラれるのに慣れるのが仕事。わかっていても、やっぱり切なくなるんです。

こんな風に、自分の身の回りの出来事や仲間をついつい想像してしまうのが短歌の面白さ。すっかりSNS疲れしていた僕に、俵万智さんの短歌は、断片的に世界が切り取られることは、嫌なことばかりじゃないと教えてくれます。

男性上司のしつこいLINEにうんざり

人間というのはこんな風に、いつでも脳内で連想ゲームをしているものなんだと思います。だからたった140字のTwitterでも、「あーだ」「こーだ」と色々な議論が起きてしまうんでしょうね。文字のコミュニケーションだからこそ起きてしまう誤解というのも大きい。

例えば、ホストクラブにいらっしゃる女性客の中には、男性上司からのしつこいLINEに悩んでいる方がたくさんいます。短いテキストから妄想が膨らんでしまうことで、トラブルに発展してしまうのでしょう。

「打ち上げってことで、メシでも行こうよ」「今日のメイク、可愛かったね」。男性からのこうしたLINEに対して、立場の弱い女性たちは、無視することも強い言葉で拒否することもできず、「ありがとうございます」「嬉しいです!」と返してしまう。あるいはチャーミングなスタンプで逃げ切ろうとしてしまう。

そこには、絵文字を使わないで短く返せば、やんわり断ったことになるかも。テキストを打たずにスタンプだけで返せば、私の真意を汲んでくれるだろう。こうした相手への無意識の期待があるのだと思います。