瀬戸氏側が委任状を配っていないワケ
委任状争奪戦は、プロキシーファイトの日本語訳として定着している。プロキシーファイトとは、双方が相手の議案を否決するよう求めること。LIXILグループの場合、会社側は「1号議案と2号議案に賛成し、3号議案には反対する」ことを求めており、対する瀬戸氏サイドは「1号議案には反対し、2号議案と3号議案に賛成する」ことを求めているから、プロキシーファイトはしているのである。
委任状争奪はしていないが、プロキシーファイトはする。瀬戸氏サイドが分かりにくい対応をしているのは、株主から送られてきた委任状を受け取り、それを株主提案への賛成票としてカウントする作業が煩雑なためだ。
株主総会に詳しいコンサルタント会社の担当者は「相当な資金力とマンパワーがないと、株主提案をしている側が委任状争奪を仕掛けるのは難しい」と指摘する。株主総会で会社と株主が争うといっても、株主提案は圧倒的に不利なのだ。
会社側に都合の良い情報を正す手段が少ない
株主提案が劣勢に立たされやすい理由は他にもある。
多くの個人株主は議決権行使をする際に、判断のよりどころとして会社側から送られて来た招集通知を見ることだろう。LIXILグループの通知を見ると、1ページ目に「当社取締役会および指名委員会は、株主様から提案された第3号議案には反対」との記述が赤字で書かれ、その理由を8~9ページと26~34ページで詳述している。
8~9ページに書いてあることをかみ砕くと、「会社側が考える取締役に必要な資質に合致しない候補者が株主提案の中にはいる」ということだ。
ここでいう「必要な資質」は別途書かれており、例えば「海外M&Aや海外事業・海外子会社のリスク管理に関する知見・経験」などとあるのだが、それでは会社提案の候補者は、すべてこの必要な資質を満たしているのだろうか。
例えば社内取締役候補の大坪一彦氏。LIXILグループ幹部に聞いてみると、「確かに会社提案にある社内取締役候補の大坪一彦さんは国内営業一筋の人。英語をしゃべっているのは聞いたことがない」という人物評だった。しかし、こうした記述は招集通知にない。
会社側が出す通知だから、会社側の情報と株主側の情報に偏在があるのは仕方がない。しかし、株主提案サイドが招集通知の誤解や誤りを株主に知らせる手段はメディアを通じて発信するなど、手段が極めて限られている。