列車の来ない無人駅を、近所の人たちが掃除する理由

南阿蘇鉄道の10の駅のうち、出発駅と終着駅をのぞいた8駅はすべて無人だ。どの駅も、近所の人たちがボランティアで掃除や手入れをすると耳にした。それは協議会が住民に働きかけているのだろうか。

「いえ、それはわれわれが促進しているわけでも、お願いしていることでもありません。この地域の人たちの特徴と言ってもいいのだと思いますが、自分たちの暮らしている土地をきれいに整えたいという思いを持っている方が多いです。特に年配の方たちに見られることです」

本川さんが説明した。

「線路沿いに咲いている菜の花やシバザクラも、近所の人たちが植えて手入れをされてるんですよ」

それは、地域の人たちが観光資源として大切にしているからなのだろうか。

「いえ、そうではありません。この路線がある景色が、きっと私たちの暮らしにはなくてはならないものだからだと思います」

高森駅では乗務のローテーションにかかっていない駅員たちが線路の手入れをしていた。(撮影=三宅玲子)

地元にも、観光客にも愛される、南阿蘇のローカル線

南阿蘇鉄道の近くに暮らす人たちにとって、朝に夕に、田園風景の中をゆったりと列車が走る姿は、自分たちの暮らす土地の美しさを改めて感じさせ、日々の暮らしの豊かさを思い起こさせるものなのかもしれない。

「私もそうです。この高森で育ちましたが、踏切で列車を待つときのカンカンという遮断機の音、線路沿いの菜の花、どれも愛着があります」

列車が通り過ぎるとき、踏切で止まっていた車の運転席で、ハンドルを握る女性がにっこり笑って見送ってくれたことを思い出した。

観光資源であり、生活路線であり、そして、この町の人たちをあたためる心の風景として、きっと存続しなくてはならない。観光客も地元の人たちも、南阿蘇を走る17.7キロのローカル線の再開を待っている。

三宅 玲子(みやけ・れいこ)
ノンフィクションライター
1967年熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009~2014年北京在住。ニュースにならない中国人のストーリーを集積するソーシャルプロジェクト「BilionBeats」運営。
(撮影=三宅玲子 写真提供=南阿蘇鉄道)
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