オスとメスがいるのは「子孫を残すため」は不完全な回答

オスとメスとがいるのは、子孫を残すためだと思うかもしれないが、別にオスとメスとがなくても、子孫を残すことはできる。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/rusm)

その昔、地球に誕生した単細胞生物には雌雄の区別はなく、単純に細胞分裂をして増えるだけだった。実際に、今でも、単細胞生物は、細胞分裂で増えていく。ただし、細胞分裂をして増えていくということは、元の個体をコピーしていくことである。そのため、どんなに増えても元の個体と同じ性質の個体が増えるだけである。

しかし、すべての個体が同じ性質であるということは、もし環境が変化して、生存に適さない環境になると、全滅してしまうことも起こりうる。

一方、もしさまざまな性質の個体が存在していれば、環境が変化しても、そのうちの、どれかは生き残ることができるかもしれない。そのため、環境の変化を乗り越えて同じ性質の個体が増えていくよりも、性質の異なる個体を増やしていった方が、生き残っていくには有利なのである。

なぜ、自分の遺伝子と他の個体が持つ遺伝子を交換するのか?

それでは、どのようにすれば自分とは異なる性質を持つ子孫を増やすことができるのだろうか。生命は遺伝子をコピーしながら増殖していくが、正確にコピーをするわけではない。

生命は、あえてエラーを起こしながら、変化を試みているのである。しかし、エラーによって起こる変化はとても小さいし、エラーによって起こった変化が、よりよくなる変化である可能性は大きくない。

稲垣栄洋『敗者の生命史38億年』(PHPエディターズ・グループ)

環境の変化が大きければ、生物もまた大きく変化することが求められる。それでは、どのようにすれば、自分を大きく変えることができるだろうか。自分の持っている手持ちの遺伝子だけで子孫を作ろうとすれば、自分と同じか、自分と似たような性質を持つ子孫しか作ることができない。そうだとすれば、もし、自分と異なる子孫を作ろうと思えば、他の個体から遺伝子をもらうしかないのだ。つまり、自分の手持ちの遺伝子と他の個体が持つ遺伝子を交換すれば良いのである。

たとえば、単細胞生物のゾウリムシは、ふだんは細胞分裂をして増えていく。しかし、それでは、自分のコピーしか作れない。そこで、ゾウリムシは、二つの個体が出会うと、体をくっつけて、遺伝子を交換する。こうして、遺伝子を変化させるのである。