eの説明は非常に難解なため詳細は省くが、eは高校で習った「微分積分」に深く関わる数だ。微分とは「x分のyという割合においてxを無限小にするときの量」で、「勢い」と考えたらよい。投げたボールのスピードを思い浮かべればわかるように、位置や速度は刻々と変化する。その瞬間、瞬間の勢いが微分だ。同様に複利の期間を無限に小さくすれば、利息も刻々と変化する。そしてネイピア数eを用いることで変化する量を計算でき、「100万円×(eの0.07乗)の10乗=201万3752円」と計算される。
実は、身近で見られる現象のほとんどは刻々と変化するものばかりだ。そして、微分すなわち瞬間の勢いに注目することで、そうした現象をモデリングでき、それが「微分方程式」なのである。そういうと難しく思われるかもしれないが、私たちが日々実感している経験を説明できるものなのだ。
たとえば、お茶の湯温は入れたてのとき急激に下がり、次第に室温に近くなるにつれてゆっくり下がるようになる。湯温が変化する勢い(微分)が、その瞬間の勢いに比例していると考えられ、それを表す微分方程式を解くと、湯温の時間変化がネイピア数eを用いた指数曲線「y=eのx乗」になる。
スティーブン・ストロガッツの論文「恋愛と微分方程式」も、その湯温の変化の微分方程式と同じものなのだ。男女それぞれが持つ愛情の量の微分方程式を解くと、愛情の量の時間変化がやはりネイピア数eを用いた指数曲線で表される。そういうと、どんな形のグラフか頭のなかに思い浮かんではこないか。
サイエンスナビゲーター
1968年生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業、同大学大学院修了。2000年、日本で初めてのサイエンスナビゲーターとして活動を開始。『面白くて眠れなくなる数学』など著書多数。