人間のディープラーニングを支えたのは「手」

人の文明は、「手」がつくりあげた。4本の長さの違う指と、少し逆の動きをする親指の連動で、「つかむ」「さわる」「なでる」「しめる」など、膨大な量の知覚情報の収集を可能にした。人のディープラーニングを支えたのは、「手」なのだ。

「手」のおかげで、人は文明を継承できたとも言える。筆記具を持ち、文字を書き残せた。人に近い知能を持つと言われるクジラが、なぜあの姿で進化を止めてしまったのか。「手」がないから、文明を書き残せず、次の世代への継承と、クジラの知性体としての進化の機会を放棄してしまったからだ。

人は「手」の獲得により、ほかの哺乳類に比べ、群を抜いた進化を遂げられた。偶然なのか、何かの遺伝信号なのかはわからないが、二足歩行すると決めた瞬間、人は「手」がフリーになった。そのとき、いまの表現で言うなら、人は知性体としての最初のシンギュラリティを迎えたのだろう。

AIを搭載した人工臓器が登場するかもしれない

人ほど上手に、自由に「手」を使いこなしている動物は、ほかにいない。「手」によって、進化のジャンプを遂げた。

堀江貴文『僕たちはもう働かなくていい』(小学館新書)

AIが人間社会で、本当の意味で役に立つための成長をするには、人間と同じように「手」を持ち、自由に動き回らなくてはいけない。それは進化論的にも、当然の帰結だ。あらゆるものを手づかみして、あらゆることを学び、私たちのストレスを極限まで減らす、良きパートナーへ育ってほしい。

AIやロボット研究がどこまでも進んでいくと、人間の身体の不具合ができたとき、ロボットのパーツや臓器と取り替え、すぐ健常に戻れる時代が到来するかもしれない。

AIを搭載した人工臓器だ。

レイ・カーツワイルの言う「脳に電極を刺す」だけでなく、脳を入れ替えたり、複雑な交換手術を行ったりすることも可能になるだろう。不具合が起きたから、という理由ではなく、機能の“拡張”のために交換することが当たり前になる時代が来るかもしれない。

私たちはもしかしたら、人間として生まれて、人間のまま死んでいく、最後の世代かもしれない。AIの進化は、そんな生き方や価値観の大転換を、人間に迫ることになるだろう。

堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)
実業家
1972年、福岡県生まれ。SNS media&consulting株式会社ファウンダー。ライブドア元代表取締役CEO。東京大学在学中の96年に起業。現在は、ロケットエンジン開発やさまざまな事業のプロデュースなど多岐にわたって活動。会員制コミュニケーションサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」や、有料メールマガジン「堀江貴文のブログでは言えない話」も多数の会員を集めている。
(撮影=小学館写真室)
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