安定株主となりやすい個人投資家を取り込みたい
当時、わが国では資本の自由化(国内で外国資本の企業新設を認めることなど)が進んだ。資本自由化に伴い、企業経営者は自社が外国企業に買収されるのではないかと不安心理を強めた。その不安を解消するため、大手企業を中心に株式持ち合いが増えた。企業同士が株式を持ち合い、経営基盤を長期的に安定させようとした。
しかし、1990年代初頭の資産バブル(株式と不動産価格の急騰)崩壊後、企業は収益や財務内容の維持を目指し、資産を売却せざるを得なくなった。株式持ち合いの解消が進み、安定株主の減少に直面した企業は、株主優待制度を強化することで、安定株主となりやすい個人投資家を取り込もうとしている。
株主優待制度は、株主に価値を還元する方策の一つだ。同時に、優待制度の有無が企業の良しあしを決めるのではない。
株主に価値を還元する(例、配当を支払う)ために、企業は持続的な成長を実現しなければならない。この考え方にのっとり、株主優待制度を設けていない企業も多い。トヨタ自動車は代表例だ。その理由を考えてみたい。
「商品券を配るなら、配当金を積み増せばよい」
トヨタには、本業の成長が、株主への価値還元に他ならないという考えがあるはずだ。トヨタは、イノベーションを発揮して、より大きな付加価値を創造しようとしている。その上で同社は、収益の一部を配当や自社株購入に回し、株主に価値を還元してきた。
これは、最も基本的、かつ本質的な株主への価値還元の考え方といえる。同時に、トヨタは企業の社会的責任を果たすために収益の一部を用い、多様な利害関係者の理解と納得を得てきた。
持続的成長を実現してこられた企業は、経営の成果そのものをアピールし、投資家の支持を得ることに取り組めばよい。その上で、優待制度の運営が検討されるべきだろう。優待制度を通して自社製品を株主に提供することは、より多くの“ファン”の獲得につながり、安定株主の増加に貢献する可能性がある。
同時に、すべての株主が優待制度を支持しているわけではない。実際、機関投資家の中には、株主優待の受け取りを拒否する者もいる。投資家の中には、「商品券を配るなら、配当金を積み増せばよい」との考えもある。