「いまの状況が悪い」だけで転職するのはもったいない

これがなぜ転職に関係があるのか? ということですが、要するに「逃げ」を打ちたくなるようなつらい状況は、時間を経ると「平均への回帰」によって、自然に改善してしまう可能性がある、ということなのです。

転職は大変リスクの大きい行動です。どんなに事前に調べて考えを尽くしても、やはり失敗の懸念はぬぐいきれません。もし、状況の振り子が今後改善側に振れる可能性が多少でもあるのなら、「いまの状況が悪い」というだけで転職してはもったいないと思うのです。

さらに、先述した通り、状況が悪いときは精神的にも肉体的にもエネルギーレベルが落ちているので、人生の舵を大きく切るようなことをするのはリスクが大きいとも言えます。

これは、株で考えてみれば非常に分かりやすい。自分の状況は株価と同じで上昇したり下降したりします。状況が悪いときに「逃げの転職」を実行するのは、株価が下がった局面でこれを売却し、別の株を買うことと同じです。これを繰り返していれば、資産はどんどん縮小してしまいます。

ということで、いま「逃げの転職」をしようとしているのであれば、ぜひとも考えてほしいのが、「半年待てないか?」という問いです。

「辞めたい」から180度好転、楽しくなってきた

もし半年待ち、現在の状況が改善して「逃げ」を打つ必要がなくなる可能性があるなら、あまりがんばらずにやり過ごしてみる、つまり「何もしないで待つ」というのも、この場合、立派なオプションになる、ということを覚えておいてください。

山口周『仕事選びのアートとサイエンス』(光文社新書)

私自身も「泣きたい……もうこの会社辞めたい……」と思いながら、結局踏みとどまったところ、その後状況が180度好転して会社も仕事も楽しくなってきた、ということが何度もありました。

コンサルタントになって2年目くらいの時期だったと思いますが、連夜の深夜残業が続き、しかもアウトプットが評価されずに七転八倒していたころに「本当に辞めよう」と思ったものの、あまりに忙しくて転職のための準備、つまり志望動機や履歴書を作成したりするための時間が取れず、結局目の前にやってくる氷山のような仕事の山を何とかこなしているうちに、プロジェクトも終了し、いろいろな人間関係も改善してしまった、ということがありました。

喉元過ぎれば熱さを忘れる、ではないですが、会社全体の社風と自分のパーソナリティが完全に合っていないといった、どうやっても改善しようがない問題でない限り、じっと待ってみる、というのも有効な戦略の1つだと思います。

山口 周(やまぐち・しゅう)
コンサルタント
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て、コーン・フェリーに参画。現在、同社のシニア・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。著書に『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『劣化するオッサン社会の処方箋』(以上、光文社新書)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。
(写真=iStock.com)
関連記事
「会社を辞めたい」で成功する人ダメな人
取引先の怒りを鎮める「幽体離脱」の技術
日本企業のパワハラ"訴えた人負け"の現実
「エース社員が辞める」残念な会社の特徴
「社会人が転職したい会社」トップ300社