今の仕事がつらいからと、すぐに会社を辞めるのは早計だ。コンサルタントの山口周氏は「私自身も『辞めたい』と思いながら踏みとどまったところ、状況が180度好転して会社も仕事も楽しくなった。何もしないで待つのも戦略の1つだ」という――。

※本稿は、山口周『仕事選びのアートとサイエンス』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

経営者への抗議としての「逃げの転職」

転職には「攻め(=自分のやりたいこと、よりなりたい自分へ近づくための転職)」と「逃げ(=自分にとって望ましくない、耐え難い状況から脱するための転職)」の2つのタイプがあります。私自身は両方のタイプを経験していますが、それぞれ留意すべき点が異なるように思います。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/takasuu)

世の中には「攻めの転職」はいいが「逃げの転職」はよくない、と諭す人もいるようですが、あまり気にしなくていいでしょう。いま現在、非常につらい職場環境にあるのなら精神の健康を、ひいては自分の人生を守るためにもすぐに逃げるべきです。

加えて「逃げの転職」は、本来的に内部からのコーポレート・ガバナンスが効き難い日本企業に対して、経営の是正措置をとらせる強力な圧力の1つだと私は考えています。

日本の商法では、経営者は株主から委託されて経営を執行する立場にあります。経営者の経営執行状況をチェックして、必要に応じて是正措置をとらせるシステムをコーポレート・ガバナンスと言います。このシステムにおいて、チェックおよび必要に応じて是正措置の要求を行うのが従業員・取引先等のステークホルダーの役割になります。

辞めないことは会社に「賛意」を示すこと

ステークホルダーは、大きく「オピニオン」と「エグジット」の2つを、是正措置の要求手段として持っています。

例えば株主(※)。株主は、経営者の経営状況に満足していれば「株を買う」という形で賛意を表明し、不満足であれば「株主総会で文句を言う=オピニオン」「不信任案を提起する=オピニオン」「株を売る=エグジット」といった形で是正措置を要求します。

※権利が大きい分、責任も大きい。例えば、企業破綻時には、取引先の債権は株主の権利よりも優先される。

次が顧客です。顧客は、経営の状況に満足であれば「取引を継続する」、または「取引量を増やす」という形で賛意を表明しますが、反対であれば「営業担当に文句を言う=オピニオン」「取引量を減らす=オピニオン」「取引をやめる=エグジット」といった形で意見を表明したり圧力をかけたりすることができます。

そして最後のステークホルダーが従業員になるわけですが、従業員には非常に限定的な要求手段しかない、というのが日本の状況なのです。特に「反対意見の表明=オピニオン」が難しい。

例えば賛意という点については、会社にい続けるということで、消極的ではありますが表明できます。積極的に仕事をがんばる、外部向けのPRや採用活動に貢献するといった形でも、賛意の表明は可能でしょう。

しかしながら、経営陣に対する要求手段は、方法としてほとんど閉ざされているのが現状です。法的に担保されているのは労働組合を通じた意見表明なのですが、これも「組合としての意見」になってしまうわけで、個人の意見をそのままぶつけられるわけではありません。