勇気を振り絞って子どもたちに告白
それから何日経ったでしょうか。玲子さんから電話がありました。とても明るい声で、同じ人とは思えません。
「滞納額っていくらでしたっけ? 一括で支払います! 引っ越しもしますから、鍵の受け渡し方法を教えてください」
声は自信に満ちていました。
そして、看護師をしている長女が、「私の部屋は普段寝るだけなのに結構広いから、とりあえず一緒に住もうよ」と言ってくれました。「仕事が忙しいので、お母さんが家事をしてくれるととても助かるから」って! 滞納額は、長男と長女が工面してくれるって言うんです。部屋に残っていた不要なものは、リサイクルの業者に渡して、少しでも家賃の足しにしようって。子どもたちのたくましさに本当に救われました。
「ひとりじゃない」と知った時に力が湧く
そうやってあっという間に、問題は解決。玲子さんの声が、明るいのもうなずけます。
「お母さんが一生懸命に子育てをしてこられたからですよ。今までのご褒美ですね」
人はこれほどまでに、精神面に左右されるのです。毎日、お金のことを考えて、でも出口が見えず、どうしていいのか分からない。時には「死」すら頭をよぎります。孤独は苦しい。
けれどひとりじゃないと知った時、人にはどんなことでもがんばれる力が湧いてきます。シングルマザーとして懸命に生きてきた玲子さんは、なによりのご褒美を手にしたのです。
章司法書士事務所代表、司法書士
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2200件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。