東芝に必要不可欠な日露原子力協定批准
このインタビュー中に、西田は原子力ビジネスのカントリーリスクに言及した。
「カントリーリスクをいい出すと切りがない。当然十分に考えているけれども、あくまで関係はビジネスという観点ですから。国家間の協定などにどっぷりと浸かるつもりもない」
東芝の原子力ビジネスにとって必要不可欠なパートナーであるロシア。グルジアの南オセチア侵攻に端を発するグルジア紛争は、ロシアと米国、そしてユーロ諸国との関係を緊張させている。“新冷戦”構造が国際社会に生まれたとする見方も出てきている。
はたして事はそれほど単純なのか。しかしながら、ロシアに対し、米ロ原子力協定の破棄もありうるとロシアに通告した米政府。こうした動きが東芝に必要不可欠な日露原子力協定の批准に影を落としているのはいうまでもない。
世界の枠組みが再び動こうとしているが、世界が再び冷戦構造に戻るというような簡単な構図ではない。ロシアを排除して、世界経済が成立するのか。答えは否だ。米国への有力な投資国であり、世界最大のエネルギー供給国であるロシア。この国を国際社会から締め出すことは、グローバル経済の停滞が見え始めた今となっては、世界経済の自殺を意味する。さらに震源地はロシアだけではない。
中東でのプレゼンスを巡っての争いは熾烈を極めている。それはパキスタン、アフガニスタンのコントロールとも密接に絡む。経済が世界の矛盾を覆い隠していた時代は終わろうとしている。グローバル経済を内側から政治が食い破る動きが出始めている。
半導体でも東芝の戦略の中核を担ってきた半導体メモリー大手であるサンディスクがサムスン電子によって買収されるのではないかとの報道が飛び込んできた。
東芝はサンディスクとの二人三脚でシェアトップのサムスン電子を追いかけてきただけに、もし買収が実現されれば大幅な戦略の見直しが求められる。
常に状況は変化し続け、経営者は絶えず決断を要求され続ける。西田がいう“応変力”である。西田戦略に陰り、と見る向きも出てきている。確かに東芝を取り巻く環境は厳しさを増しているが、だからこそ、西田がさらに何を残すのか、その決断と行動からますます目が離せなくなってきているのではないだろうか。