加えて、北朝鮮が違法な「瀬取り」(編集部注:洋上で船から船に物資等を積み替えること)による密輸を繰り返していたことも明らかになりました。国連安全保障理事会の専門家パネルは1月30日、北朝鮮が韓国などと共謀して、約150回にわたり、国連の制裁決議に違反する瀬取りを行っていたとの報告書をまとめました。国連やアメリカ、そして日本も、船舶監視を強化していますが、瀬取りの取り締まりには限界があります。
さらに専門家パネルは、韓国が昨年、陸路からも約338トンの石油精製品を北朝鮮に持ち込んだことを指摘しました。また、北朝鮮が中国に北朝鮮近海での漁業権を販売し、外貨を獲得していたことも報告されています。
北朝鮮は制裁をすり抜け、違法な取引で生命線をつないでいます。制裁の網の目は穴だらけというのが現実です。こうした状況を見ると、北朝鮮が「制裁で首が絞まり、助けを求めている」とは一概には言えない部分があります。制裁だけで北朝鮮を追い詰めることがなかなかできない以上、交渉による打開がどうしても必要なのです。
トランプが制裁緩和に応じる可能性は高い
では、2回めの米朝首脳会談で、トランプと金正恩は具体的にどのような歩み寄りをし、交渉を妥結させるのか。私は、アメリカが制裁緩和に応じる形の譲歩を見せる可能性が高いと考えています。具体的には、石油などのエネルギーの輸入制限の部分的解除、北朝鮮の海外口座凍結の部分的解除、人道的支援の実施などです。テロ支援国家の指定の解除も考えられます。
トランプ大統領は1回目の首脳会談の後、「最大限の圧力という言葉はもはや使いたくない」と述べました。その言葉の意味を、第2回会談の前に改めて考えておく必要があると思います。
著作家
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家。テレビ、ラジオ、雑誌、ネットなど各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。近著に『朝鮮属国史――中国が支配した2000年』(扶桑社新書)、『「民族」で読み解く世界史』、『「王室」で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)など、その他著書多数。