終戦宣言は在韓米軍の駐留の名分を失わせ、同軍の撤退へとつながる可能性が大きいものです。在韓米軍の撤退は、中国や北朝鮮が最も望んでいることですが、日本や韓国にとっては安全保障上の重大な環境変化をもたらすもので、軽々に応じられては困ります。

金正恩委員長は終戦宣言について、強気の姿勢であると伝えられています。この強気の背景に、中国の存在も見え隠れします。1月8日、金正恩委員長は北京を訪れ、中国の習近平国家主席と4度目の中朝首脳会談を行いました。その後習近平主席はトランプ大統領に親書を送り、トランプ大統領は米朝首脳会談と同時期に米中首脳会談も行う可能性があると述べました。北朝鮮と中国の動きは明らかに連動しており、この構図は1回目の米朝首脳会談の時と同じです。

また、北朝鮮は「米朝共同宣言」の第3条を盾に取り、狡猾な主張をしています。第3条には、「2018年4月27日の板門店(パンムンジョム)宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束する」と書かれています。この「朝鮮半島の完全な非核化」のためにも、核兵器とともに朝鮮半島に駐留する在韓米軍の存在は認められないと主張しているのです。

「マティス辞任」で見えたトランプの信条

ここで気になるのが、トランプ大統領の意向です。われわれはマティス前国防長官の辞任で、トランプ大統領のカネ勘定のシビアさについて思い知らされたばかりです。マティス氏は米軍のシリア撤退に反対し、「同盟国に敬意を払うべき」と主張して辞任しました。これに対し、トランプ大統領は「われわれが多くの裕福な国の軍事的負担を背負っている一方、これらの国は貿易でアメリカにつけ込んできた。同盟国は重要だが、アメリカにつけ込んでいる場合は違う」と、自身のツイッターで反論しました。

この事案からもわかるように、プラグマティックなトランプ大統領にとって、カネ勘定こそが正義なのであり、他国のためにアメリカが出費をするという「お人よし外交」は許せない絶対悪なのです。そのトランプ大統領がアメリカから遠く離れた朝鮮半島や極東を守るため、在韓米軍を維持しようと考えるでしょうか。

トランプ大統領は在韓米軍2万8000人の駐留経費の分担金について、韓国に大幅増額を要求。文在寅政権はこれを拒否し、10回めの協議でも合意にいたらないなど、交渉は難航を極めました。2月10日になってようやく米韓両政府は、韓国側の負担額をこれまでの年間8億ドルから10億ドル近くまで引き上げ、5年だった有効期限を1年とする新たな協定に仮署名。中国や北朝鮮はこうした経緯をよく把握し、思惑を張り巡らせています。