「気になった」「うれしかった」両方を記録する

図を拡大
「すきま時間プログラム」ワークシート

プログラムの中核は「気になったお客さま」(最善を尽くしたが、満足されたかどうか気になった)、「うれしかったお客さま」(最善を尽くし、お客さまにも喜ばれ、自分もうれしかった)という2種類のお客さまについて、接客時の事実を記録するワークシートだ。各シートの質問項目は図表を参照いただきたい。全員または一部のスタッフが、休憩の前後、接客の合間といった、10分から15分の「すきま時間」にワークシートを記入する(記入されたシートは、ケースと呼ぶ)。

特に「うれしかったお客さま」の記入を続けていると、スタッフの中には「シートに書けるようないい接客をしたい」という気持ちが起こり、この気持ちがサービス向上につながっていく。

「仮説をもって接客をするようになり、それが楽しい」という声もスタッフから寄せられるようになる。またシート記入を通じて顧客とのやりとりがしっかり記憶される。次の来客時にその記憶が活用され、いい接客に結びつく効果も生む。

集めるケースのめやすは、スタッフ1人あたり週に2件程度。最初は2週間、ケースを収集することをお勧めしている。つまり集めるケースは1人あたり4件程度になる。集めたケースは朝礼で発表してもらったり自由に閲覧してもらったり、互いのケースを共有し、自由に意見交換できる環境をつくっておく。2週間たったら、集まったケースを類似の案件ごとに集計し、それを資料にしてスタッフ全員で意見交換する共有会を開催する。プログラムの主要部分は、たったこれだけだ。

ここでプログラム実践にあたり、ぜひ守ってほしいルールがひとつある。

「気になったお客さま」と「うれしかったお客さま」、両方のケースを集めることだ。読者の中には「問題を改善するのだから、『気になったお客さま』だけでいいのでは」と思う方がいるかもしれない。だが実はここに、従来の顧客満足向上策が陥りやすい落とし穴がある。

従来の向上策でよく見られるのが、クレームなど不満足ケースだけに意識を向け、それらを撲滅しようとするものだ。こうした取り組みはサービス力向上のペースが上がらないことが多い。顧客とのやりとりの中で感じた、「マイナス方向の差異」にばかり意識を向けても、顧客感度は高まらない。そこからは従来の物の見方、感じ方にとらわれることで生まれる、不安や葛藤を解消する力が湧いてこないのだ。

毎日、意識しなければすぐ忘れてしまうような顧客とのやりとりの中から、「プラス方向の差異(うれしかったお客さまとのケース)」「マイナス方向の差異(気になったお客さまのケース)」を感じた状況を、シート記入を通じて抽出する。この実践を毎日繰り返すほど、顧客状況の差異を感じるセンサーの働きがよくなっていく。

まず「うれしかったケース」で、顧客の感謝に支えられている自分たちを実感し、安心な状態をつくることで、未知のものを受け入れる余地を少しずつつくっていく。そうして初めて、「気になったケース」を不安感なく、好奇心をもって挙げられるようになる。「気になった」「うれしかった」両方を振り返ることで顧客状況の差異を感じるセンサーの働きは高まり、そこから葛藤、不安を乗り越えるアイデアが生まれてくるのだ。