「昼食はおにぎりに限定」のスポーツクラブも
しかし、なぜそこまでして、おにぎりの「アップデート」が必要だったのか。原点は、主なターゲット層である子育て世帯の声だった。
個別インタビューなどを交えた市場調査を実施すると、保護者たちは具材のマンネリ化や、それに伴う栄養バランスの偏りに頭を悩ませていることが分かった。特に地域のスポーツクラブなどに参加している子供について調べると、屋外での食べやすさなどを理由に、昼食はおにぎりにするよう指定されている例も目立った。
コンビニエンスストアで見かけるおにぎりこそ、近年は「オムライス」や「卵かけご飯」などの変わり種も増えている。だが、家庭で保護者が手作りするおにぎりといえば、かけられる時間や手間も限られ、具材は梅干しや鮭、佃煮などが定番になる。
「おにぎり丸」は数十種類のおかずの中から試作を繰り返し、発売時の5種類まで絞りこんだ。「ご飯との相性の良さはもちろん、肉と野菜を入れ、栄養バランスを考えた組み合わせにしました」と竹岡氏。
グループ企業である味の素では「トップアスリートやがんばる人」をサポートする食事プログラム「勝ち飯」の取り組みを推進している。メニュー開発では、その「勝ち飯」を担当する管理栄養士の協力も得た。さらに「子供が喜んでくれるような『ワクワクする』ラインアップ」を意識。出来立ての瞬間を凍らせることができる冷凍技術の強みを存分に生かすことで、ご飯とおかずをギュッと一つにした新型おにぎりを生み出したのだ。
「握る」ひと手間はあえて残した
現在のところ、競合と認識している製品はないという。ただ、冷凍おにぎりといえばポピュラーなのは「焼きおにぎり」だ。いっそのこと、同様にご飯の部分まで凍らせてしまった方が手間を省けるのでは? そんな疑問が浮かぶ。だが、それも「あえてやっていること」なのだという。
「保護者の皆さんとしては、『既成のものをそのまま出す』という事実に対して罪悪感を抱いてしまいがちなんです。『愛情を込めて握る』という、おにぎりの根幹ともいえる『ひと手間』はあえて残しておくことで、それを軽減できる。受け入れてもらいやすくなったと思います」(竹岡氏)
日本冷凍食品協会によると、2017年の家庭用冷凍食品の国内生産額は約3020億円で、前年より4.7%増えた。10年前の2007年(約2416億円)と比べれば約25%の伸びだ。1980年代に電気冷蔵庫が普及したのをきっかけに、グラタンやピラフなどの軽食、電子レンジ対応の揚げ物、冷凍パンなど、ライフスタイルの変化を反映しながら、バラエティー豊かに発展を遂げてきた。
おにぎりは、外出先での手軽な昼食としてだけではなく、その食べやすさから小学生以下の子供の朝食や、受験生の夜食などでも重宝されている。冷凍食品市場で、「おにぎりの具」をめぐる商品開発競争が今後生まれてくるかもしれない。