「うつ病と認知症というのは完全に区別できるというよりは、うつ病から認知症に移行することがよくあります。実際に診察をしていて、最初はうつ病だけだったけれど、徐々に物忘れがひどくなり、認知症を併発することは少なくありません」(同)
とはいえ、うつ病と認知症の症状に違いはないのだろうか。違いの1つが妄想の種類だ。うつ病でも、認知症でも、妄想が現れることがよくあるが、うつ病の妄想の大半はささやかな妄想(微小妄想)だ。微小妄想の主なものは、自分が周りに迷惑をかけているといった自責の念が強くなるタイプ、資産家なのに「お金がない」といった悩みを訴えるタイプ、がんではないのに「もう助からない」と思い込むというタイプがある。それに対して、認知症では、大事な持ち物を失くして、「嫁に盗まれた」などと言い張る「物盗られ妄想」が典型的な症状。認知症の中には、幻覚や幻視も起こりやすく、実際には誰もいないのに人影を感じて、「浮気をした」と配偶者を責めたりする「嫉妬妄想」が見られる場合もある。
このように、うつ病と認知症は違う点があるが、2つの病気は密接に関係していることに変わりはない。認知症ではなく、うつ病だったとしても、「うつ病は“心のカゼ”だから、認知症と違って治るよ」という話ではない。
「重要なのは、うつ病にせよ、認知症にせよ、病態を正しく把握して、早いうちから適切な治療を受けることです。症状があるのに放置をしてしまうと、悪化して、最悪自殺をしてしまうリスクも高まります。そういったことを防ぐためにも、心配な症状があれば、医療機関に相談することをお勧めします。精神科への受診を嫌がるようでしたら、高齢者を多く診察しているかかりつけの医療機関に相談するのもひとつの手です」(同)
高齢になったら、健康的あきらめ思考法に変える
医療機関ではどういう治療が受けられるのか、三村教授は説明する。
「高齢者のうつ病の治療では現在、薬物療法と精神療法が主流になっています。精神療法の中心は認知行動療法といって、物事の考え方や行動パターンを変えようとする治療法。ほかにも、薬でよくならないような症状の場合は、電気けいれん療法を行うこともあります。通電療法と言うこともありますが、慶應義塾大学病院でも年間500件ほどの治療を手掛けています」
薬物療法で一般的に使用される抗うつ薬には種類があるが、いずれも神経伝達物質を脳内で増やし、脳の機能を改善する仕組みだ。しかし、薬は副作用が付き物で、過度に依存するのは問題があるため、精神療法も活用されている。