自衛隊機と韓国艦は、どこで何をしていたのか
ではなぜ、このような常識はずれの事案が起きたのか。事案発生当時、問題の韓国艦は日本海中央部の大和堆に近い日韓中間水域(11月15日に起きた日韓漁船衝突事故の現場付近)にいたとされる。韓国艦は当該海域で、北朝鮮の木造漁船(しばしば工作船としても使われる)の監視と、通常の訓練を行っていたと思われる。韓国側が主張する「北朝鮮漁船の救難活動」も、あったとすればその中で行われたのであろう。
一方、海上自衛隊のP‐1は能登半島沖の、日本の排他的経済水域(EEZ)の上空にいたとされる。当該機は厚木の第4航空群の所属で、こちらも厚木航空基地から日本海側へ進出し、そこから日本の領海線に沿って回る通常の哨戒活動をしていたと思われる。
具体的には目視(光学式観測)と対水上レーダーによる、海上哨戒活動である。P‐1の水上レーダーは非常に高性能で、海上に浮かぶ多数の船舶の大きさや形、動きなどをすべて把握できる(一説には、水面から数センチほど顔をのぞかせた潜水艦の潜望鏡さえも探知できるという)。そうした性能を使って、北朝鮮船による沖合での瀬取り行為(安保理決議違反である)の監視も行っていただろう。
つまり韓国艦も自衛隊機も、お互いに通常の任務中であったといえるだろう。その中でなぜ、あのような事案が発生したのか。
「味方です」の警告を手動で解除?
おそらくは韓国艦が何らかの監視活動、あるいは救難活動を行っているときに、P‐1哨戒機の航路に過剰に反応したのではないか。軍艦は常に、周辺の航空機の動きを対空レーダーで監視しており、軍用の敵味方識別装置(IFF)や民間用のトランスポンダを用いて、レーダーでとらえた航空機がどこに所属するのか、友軍か否かも把握できる。ここまでは、どんな艦でも行う問題のない行為である。
だが、火器管制レーダーの照射は違う。ビームが目標に照射された時点で、いわゆる「ロックオン」という、艦の射撃指揮システムが目標を正確に把握した状態が成立する。照射された航空機では、システムが画面表示と警告音によって、ロックオンされた事実を乗組員に伝える。
2013年に中国海軍のフリゲート艦が海自の護衛艦に火器管制レーダーを照射したときもかなりの騒ぎになったが、「友軍」から照射されるというのは、意味不明としか言いようがない状況だったろう。そういう状況のもとでも、防衛省が公開した動画ではP‐1の乗組員は終始冷静で、レーダー波の周波数確認を含む必要な任務を高い確度で遂行していたのが印象的だ。