政府の意向でファンド運営が左右されてしまうと危惧

しかし、政府にはその発想がなかった。そのため、経営陣が正規のプロセスに則って策定した報酬水準が、突如として引き下げられた。これは、一般企業では考えられない。その状況を受けて、多くの民間出身者らが官民ファンドとは名ばかりであり、政府の意向によってファンドの運営が左右されてしまうと危惧したことは想像に難くない。

報酬をめぐる政府との関係悪化を理由に、JICの民間出身取締役が辞任したことは、多くの企業にとっても重要な教訓だ。最大のポイントは、多くの人が納得できる業績評価の制度を確立し、それに基づいて報酬を支払うことだろう。

政府にはその発想がなかった。その結果、政府は、高額報酬は問題という従来の発想に縛られ、報酬を引き下げて批判をかわそうとした。この発想が改められない限り、同様のケースが起きる可能性は否定できない。

成果主義に目を背けたままでは生き残れない

問題は「高額報酬、業績連動型報酬」ではない。それは、グローバル社会で企業が競争し、勝ち残るために欠かせない。高額報酬や成果主義の考え方に目を背ければ背けるほど、優秀な人材を確保することは難しくなる。長い目で見ると、それは企業の存続を左右するだろう。

わが国が取り組まなければならないのは、従来の発想の転換だ。能力ある人が、それに応じた報酬を受け取ることは、世界の常識だ。その上で、業績などの成果を基にして、専門家を評価していかなければならない。

JICの経営陣などに関して、政府は客観的な評価制度を整備すべきだった。それは、わが国における成果報酬の在り方に、一石を投じることになっただろう。明確な評価制度の確立は、官民ファンドの運営の一貫性を担保し、リスクマネーの提供者としての存在意義を示すためにも重要なことである。そうした政府の取り組みは、民間企業における人事評価、報酬制度の見直し、あるいは変革にも相応の影響を与えただろう。

成果に基づいて専門家などの報酬を決定する考えが増えないのであれば、目立った成果がないにもかかわらず社外から招かれたプロ経営者だという理由だけで高額報酬を手にすることになりかねない。JICの教訓をもとに、業績に基づいてプロ経営者等の報酬を客観的に評価する制度策定に取り組む企業が増えることを期待する。

(写真=時事通信フォト)
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