「2島先行返還」はプーチン氏に揺さぶられた結果

沙鴎一歩は日露首脳会談を扱った9月16日付のプレジデントオンラインの連載(「安倍首相が遅刻魔プーチンを怒れない事情」)で、「むしろプーチン氏に揺さぶられている」との小見出しを付け、次のように指摘した。

「ロシア側は肝心の北方領土問題解決と平和条約締結で『北方四島は自国領』との従来の主張を堅持したままである」
「プーチン氏は12日の東方経済フォーラムでも北方領土問題を棚上げし、安倍首相に対し『あらゆる前提条件を抜きにして、年末までに平和条約を結べないか』と投げかけた。安倍首相は領土問題の解決が前提との立場を崩していないが、むしろプーチン氏に揺さぶられている格好だ」

あのときから、いやその前から、揺さぶられっぱなしなのだ。その結果が「2島先行返還」への方針転換である。

プーチン氏は一筋縄ではいかない。かなり手ごわい相手だ。このままでは得意技の払い腰をかけられ、1本取られるかもしれない。払い腰とは、相手を自分の腰に乗せて脚で払い上げる技だ。

「終戦直後にロシアに不法占拠された」という歴史的事実

北方4島の総面積は千葉県と同じで、人口は約1万7000人。その大半がロシア人だ。ロシアは北方4島を領土とみなして実効支配している。歯舞群島に国境警備隊を駐留させ、国後、択捉両島には駐留兵士約3500人を配置、地対艦ミサイルも配備している。

ロシアにとって北方4島はアメリカを警戒するための重要な軍事拠点なのである。民間人も多く、ロシア政府は道路や港湾、住宅などのインフラの整備に巨額の資金を投じている。

しかし日本にとって北方4島は、固有の領土だ。「終戦直後にロシアに不法占拠された」という歴史的事実を忘れてはならない。北方4島を日本に戻すためには、外交上の戦略を着実に実行でき、しかも機転の利く首相がいなければならない。相手はプーチン氏だ。安倍首相で大丈夫なのか。不安は尽きない。

プーチン氏も必死の思いで国益獲得を目指す

日本とロシアにとって北方領土問題と平和条約締結は、戦後70年余り解決できないまま積み残された大きな課題だ。11月14日のシンガポールでの会談はその課題解決に向けて一歩前進した。その点を捉え、「安倍首相はプーチン大統領との間で日露平和条約を締結することに並々ならぬ関心を持ってきた。それが実を結んだ」と高く評価する外交専門家もいる。

だが、プーチン氏も必死の思いで国益獲得を目指すに違いない。プーチン政権は景気の低迷などで支持率が急落している。ここで日本との交渉で負けると、政権自体が崩壊しかねない。それにいま、米露関係はかなり悪化している。安全保障上、アメリカの同盟国である日本に対し、実効支配している島をそう簡単には引き渡さないはずだ。

安倍首相は14日の会談後、記者団に「戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つという強い意志を大統領と完全に共有した」と語っていた。