CIAは利害さえ一致すれば誰とでも手を組む

一方で、さらに驚くべきことがある。カショギ氏は今年に入って、10年以上の知己だった50歳のエジプト人女性と米国内で結婚式を挙げていたようだが、30代後半とされるトルコ人婚約者が初めてカショギ氏と知り合ったのは、殺害事件のわずか5カ月前だったのだ。

もしこの婚約者が「ハニートラップ」などの目的で送り込まれていたのだとしたら、この事件自体、かなり以前からトルコ政府によって相当綿密に計画されていたことになる。

CIAは、件のトルコ人婚約者が関係したとされるIHH財団について、少なくとも1996年の段階で「テロリストと関係する組織」と指摘していたが、現在は国際テロ組織とは認定していない。

それどころか、かつてIHHで活動し、エルドアン大統領とも面識のある著名な活動家は、その翌年にはカダフィ政権打倒のためにCIAから資金援助を受け、リビアで戦っている。

一見、複雑怪奇だが、CIAを敵と見なすトルコもまた、利害さえ一致すれば誰とでも手を組みうるのだということを示唆している。これが、国益をかけた国際諜報戦の現実なのであろう。

三つどもえの鍵を握っているのはやはりトルコ

総じてみると、この事件は単なる反体制言論弾圧事件ではなく、サウジと米国の両国内における本格的な権力闘争の火蓋を切った事件でもあり、トルコ・エルドアン政権にとっては、少なくとも経済面での「起死回生の一手」として機能したのである。

メディアを通じた高度な情報戦を得意とする米国エスタブリッシュメント層と、生き残るための知略謀略に長けたトルコ情報機関の勝利、とも言えるだろう。トランプ政権による経済封鎖完全解除を狙って、トルコはどの情報をどの段階で出せば最大の利益を得られるのかを綿密に計算しているに違いない。

トランプ政権が、旗色の悪くなる一方のムハンマド皇太子を見限り、サウジ旧体制派に秋波を送る可能性もあろうが、米国の反トランプ派エスタブリッシュメント層はそれを決して許すまい。そうなると、トランプ政権は米国の経済覇権の維持に不可欠なサウジをコントロールできなくなり、急激にその権力を喪失しかねない。

今後もしばらくはトランプ派(+ムハンマド皇太子)と米国エスタブリシュメント(+サウジ旧体制派)、そしてトルコという三つどもえの激しい駆け引きが続くだろう。その鍵を握っているのはやはりトルコだ。