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トラブる社長の共通点(3)拡大しか眼中にない人

社長にとって、事業の拡大ほど興奮できるものはない。勢いがあるときには何でもうまくいくように感じるものだ。だからこそよりはやく、より大きくという前のめりの姿勢になってしまう。

もっとも事業の成長のスピードと人の成長のスピードは、必ずしもリンクしない。社員の個性や能力は千差万別だ。事業が大きくなるにつれ、社員の能力も同じように伸びていくことはない。こうなってくると、社長の意識は「人手が足りない。もっと採用しなければ」というものになりがちだ。次第に、今からいる社員より、新たに採用する社員のことばかりを口にするようになる。既存社員への興味が薄れていけば、当たり前だが離職率も高くなる。離職率が高くなれば、さらに人手不足で新しい人を求める。典型的な悪循環である。穴の開いたバケツにいくら水を入れても意味はない。事業が成長しているときこそ、立ち止まって既存社員の処遇を見直すべきだ。採用はそれから考えても遅くはない。

トラブる社長の共通点(4)絵面にこだわりすぎる人

誰だって自社のイメージをよく見せたいものだ。自社のイメージ作りにおいて、ホームページやSNSへの投稿は、効果的な手法であろう。社長の誕生日を社員がお祝いする写真や社員同士の課外活動の写真など、まぶしいほどに明るい写真がネットに掲載されている。社外の人からすれば「なんて素敵な会社だ。それに比べてうちの会社は……」と感じるかもしれない。

私の経験から言うと、イメージがいい投稿をしている会社ほど怪しい。イメージ戦略として、社員が無理にやらされているだけかもしれない。普通に暮らしていれば楽しいときもあれば、悲しいときもある。いろんな感情があるのが人間なのに、仕事だからといって悲しくても笑顔を強要されるとしたら、どういう気持ちになるだろう。その場では「仕事だから」と耐えられるかもしれないが、次第に忍耐の限界を超えてしまう。あくまで個人的な経験からだが、SNSの投稿が充実している企業ほど、離職率が高い傾向がある。

トラブる社長の共通点(5)業務の可視化をしていない人

社員とのコミュニケーションがうまい社長は、社員個人の業務量を的確に把握しているものだ。業務というのは、自ずと膨張する性質を有している。気がつけば、社長の想像していた業務と、実際に社員が負担していた業務量が乖離していることがめずらしくない。にもかかわらず、中小企業では、個人の業務量を可視化するという意識が希薄だ。また、たいていの社長は、特定の作業に要する負担を実際よりも過小評価してしまう。

社長は、優秀な社員に雑務を依頼しがちだ。優秀だからこそ器用に処理してくれるだろうと考え、本人の業務量などおかまいなしに次々に依頼してしまう。結果として、優秀な社員から会社を辞めていくことになる。

業務可視化の第一歩は、社員に自分が担っている仕事を書き出してもらうことだ。社員としても、書くことで改めて自分のスキルを見直すことができるだろう。実際に書き出されたものを眺めていると、発見や疑問があるはずだ。事実の共通認識があってこそ、社員との効果的な対話が成り立つ。「何か困っていることはない?」という抽象的な投げかけでは、社員としても、どう返事をすればいいのかわからないからだ。

以上、5つのトラブる社長の共通点は、実は社長にかぎったことではない。幹部を含め、マネジャーの誰しもが陥りやすいものだ。自分で「危険な兆候」に気が付くことができれば、未然に対策を打つこともできる。労働事件に発展しないよう、自分ごととして、今一度チェックしていただきたい。
 

(写真=iStock.com)
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