貯金500万円をはたいてレコード会社を買った

一方、会社を買ったばかりに、それまで得ていた資産や生活を手放さざるをえなくなってしまったケースもある。

〈あなたのそうしたチャレンジが、日本でどんどん潰れようとしている優良な中小企業を救うことにもつながるのですから〉

こう締めくくられる三戸氏の著書に対し、「安易に夢を持たせるのは危険。会社を買うなんて、やめたほうがいい」と真っ向から異を唱えるのが、井上和一さん(48歳・仮名)だ。

井上さんが経営者を志したのは、20歳の頃にアルバイトしていたレンタルビデオ店での経験がきっかけだった。

「働きぶりを会社からすごく評価してもらえていたんですよ。商品のレイアウトから、お客さんとのコミュニケーションまで、工夫次第でレンタルビデオ店の客単価は上がるので、面白くなっていろいろと仕掛けていました。そうしたらほかの店からヘッドハントされましてね。次の店では雇われ店長のようなポジションで、時給制ではなく、売り上げの10%をもらうという完全歩合制にさせてもらったんです」

結果、アルバイトながら井上さんの月収は100万円にも上ったという。

「それから10年ほどバイト生活を続けていたのですが、貯蓄も潤沢になった35歳のとき、知り合いが勤めるレコード会社が後継者不足に悩んでいることを耳にしました」

そこは、誰もが知っている有名楽曲も手がけていたレコード会社。もともとクラブでDJとしてステージに立つほど音楽が好きだった井上さんは、この機会を逃してはならないと思った。

「月収100万円のフリーター生活に見切りをつけ、当時の貯金500万円をはたいてそのレコード会社を買うことにしました」