新商品が高いか安いかを客は判断できない

そして友人の店のショーウインドーで高い値札を付けて黒真珠を売り始める一方、豪華グラビア雑誌に全面広告で、黒真珠のネックレスがダイヤモンドとルビーのブローチと一緒に光り輝く写真を出した。

するとニューヨークのセレブたちが黒真珠を着けるようになり、これがきっかけで黒真珠は希少な超高級ジュエリーとして世界中に広まった。当初はガラクタ同然と思われていた黒真珠だったが、「ニューヨークのセレブが身にまとう超高級品」として、世界がアンカリングされたのである。

世の中にない新商品の場合は、そもそも需要が存在していないので、その価格が高いのか安いのかを、お客さんは判断できない。こんな時、お客さんにバカ正直に「いくらにしましょうか?」と聞くのは、愚の骨頂である。わざわざお金をドブに流して捨てているようなものだ。

新商品で価格を付ける際に必要なことは、需要を生み出した上で、「アンカーを作る」ことだ。価格の基準を作るのは、他の誰でもない。私たちなのである。

「婚約指輪は給料3カ月分」はどこから?

「結婚のご祝儀は、友人なら3万円が相場」と一般に言われている。同じように、こんな話を聞いたことがある人も多いはずだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/nycshooter)

「婚約指輪は給料の3カ月分が目安です」

しかし、実はこれは高級宝石を扱うデビアスのマーケティングプロモーションによって作られた、婚約指輪の相場である。

そもそも日本には婚約指輪を贈る習慣はなかった。1967年にダイヤモンドの婚約指輪をもらう花嫁は、20人に一人しかいなかったという。しかしデビアスが「ダイヤモンドは永遠の輝き」などの広告キャンペーンを行った結果、いまではほぼすべての花嫁が婚約指輪を受け取るようになった。

もともと、婚約指輪の客観的な価格は存在していなかった。そこでデビアスは基準を作ったのだ。結果、結婚するカップルは「婚約指輪は、給料の3カ月分」とアンカリングされるようになり、この価格が標準となった。