アンカリングは社会に定着する

デビアスがこのプロモーションをしたのは1970年代から1980年代後半まで。30年前に終わったプロモーションだが、いまの若い人も知っている。一度アンカリングが広く認知されると、アンカリングは社会に定着するということだ。

ちなみに郷ひろみも1987年に二谷友里恵と結婚した際、芸能リポーターから婚約指輪の価格を聞かれ、「ボクの給料の3カ月分くらいです」と答えたそうである。

ガチョウのひなは、生まれて初めて見たものを親と思い込む習性がある。それがロボットであっても、動くロボットの後をヨチヨチと付いていく。これを「刷り込み」という。アンカリングは、この「刷り込み」と同じなのである。

お客さんは、最初に見せられた情報と価格により、知らぬ間に心の中にその情報と価格が刷り込まれてしまう。それらは、ひなが最初に見たものを親として刷り込まれるのと同じで、なかなか変わらない。

安値は客の心に刷り込まれる

だから新商品発売の際に、最初から安い価格にするのは、必ずしも得策ではない。最初に見せた安い価格がお客さんの心の中に刷り込まれてしまうのである。

1円の水を100円で売る方法」で紹介したように、ミネラルウオーターは100円でアンカリングされるし、今回紹介したように黒真珠は高価格で、そして婚約指輪は給料の3カ月分で、しっかりとアンカリングされる。

価格を決める場合は、お客さんの心理まで考える必要があるということだ。その際に、行動経済学の「アンカリング」の考え方を理解することは、とても大切なのである。このアンカリングの仕組みを理解しないと、たとえいい商品であってもなかなか売れなくなってしまうのだ。

永井孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント
1984年慶應義塾大学工学部(現・理工学部)卒業、日本IBM入社。マーケティング戦略のプロとして事業戦略策定と実施を担当。さらに人材育成責任者として人材育成戦略策定と実施を担当。2013年に日本IBMを退社。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体を対象に新規事業開発支援を行う一方、講演や研修を通じてマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。主な著書にシリーズ60万部の『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)、10万部の『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)などがある。永井孝尚オフィシャルサイトhttps://takahisanagai.com
(写真=iStock.com)
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