普段は見ることができない刑務所の内側。受刑者たちはどのような日々を過ごしているのか。意図せず罪を犯して刑務所生活を送った『前科者経営者』(プレジデント社)の著者、高山敦氏は「人としての尊厳を捨てるしかなかった。まさに地獄だった」と振り返る。高山氏が「地獄」を実感した場面とは――。

※本稿は、高山敦『前科者経営者』(プレジデント社)の一部を再構成したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Philmoto)

屈辱的で悪夢のような身体検査

拘置所を出てからバスで40分ほど走ったころ、刑務所の塀が目の前に見えた。シャバを遮断するようにそびえ立っている、高い塀だ。門が開いてバスが刑務所の中に入っていった。車内はクーラーが効いているはずなのに、全身に汗が、それも特に背中から流れ落ち、心臓は激しく波打っていた。

バスのドアが開いたと同時に、ものすごい怒鳴り声が耳に入ってきた。聞いたこともないような怒鳴り声だ。その声につられてバスから降りると、空気が変わり「異次元の場所」に来てしまったのだと身体で実感した。

入所するとまずは「新入調べ講堂」に入る。そこには大勢の刑務官がいて、みんな俺たちに大きな怒鳴り声で何かを言っている。初犯の受刑者はみんなその声の威圧感に固まってしまう。

次に、「新入調べ室」に入れられて、壁の前に目を閉じて立たされる。とても長い時間に感じられたが、実際には10分くらいだ。名前を呼ばれたら目を開け、刑務官の指示に従い持ち物検査を受ける。刑務官は面倒くさそうにイライラしながら荷物の内容について質問をし、はっきり答えないと、大きな声で怒鳴られる。

荷物検査終了後は身体検査を受ける。全裸になり、玉入れ検査。拘置所でも同じ検査を受けるが迫力が違うし、刑務官の目つきがはるかに威嚇的だ。モノを手でつかんで入念に調べ、裏の部分まで見られる。その後はかがんで肛門を見せる。とても屈辱的で、悪夢のような時間だ。

初犯の受刑者が震え上がる考査訓練

考査訓練とは、刑務所内での所作を身につけるための訓練だ。考査訓練を行うところを考査工場という。工場の入り口に怖い刑務官たちが数名立って、「足を上げて歩け」「肘を伸ばせ」「ちゃんと整列しろ」「気をつけ」「休め」と命令し、「遅い、遅い」と連呼される。初犯のやつはその場で震え上がり、おびえ、身体は緊張してかたまり、命令されても動けない状態になっていく。

考査訓練中は紙折りやタオルたたみなどの簡単な作業を行うのだが、いちいち面倒臭い決まりがある。

作業指導を受ける場合には、右手をまっすぐに上げ、大きな声で、「はい、○○さんと作業交代お願いします」と言うのだが、手がまっすぐに挙がっていなかったり、声が小さかったりすると怒鳴られてやり直しをさせられる。担当官に嫌われるとなかなか許可を得られなくて、延々と右手をまっすぐに挙げて「はい、○○お願いします」と、声がかれるまで許可を求めないといけない。こんなことが毎日繰り返される。

作業中も手元から絶対に目を離してはいけない。シャバで仕事しているときには、何気なく頭を上げたり、首を揺らしたりする場合があるが、そんなことをしたら即、怒鳴られる。「おい、よそ見するな」と呼ばれて、延々と指導される。