刑務所の沙汰も“金次第”

「金がなければ刑務所へ行けばいい。タダでメシが食えるし、寝る場所もある」そんなふうに考え、わざわざ刑務所に入るようなことをするやつがいる。たしかにメシと寝る場所はあるが、刑務所といえども、いざというときにモノを言うのはやっぱり金だ。

刑務所では官物が支給される。チリ紙は月300枚(1日10枚)、せっけんは月1回、歯ブラシは2カ月に1回、歯磨き粉は3カ月に1回、タオルも薄っぺらいものが3カ月に1回といったところ。これらを、「申し出」といって朝に、嫌いなおやじに頭を下げてお願いする。

金があれば、これら日用品や衣類、本、切手、はがきなどが買える。同じタオルでもいいタオルを使うことができる。買った本を見せてやれば“貸し”もできる。金がないやつは、刑務所の中であっても官物だけの貧乏生活をしなければならないし、“借り”を作って生きていくしかない。

確かに作業報奨金はあるが、先にも書いたとおり、初めの2カ月くらいは月500円。一年懲役して作業しても月に1000円程度しかもらえない。だから身内のいない人たちは、わずかな金でもシャバに出たときのことを考え、使うことなくためている。

結局は刑務所もある程度のお金を持って入所しないと、初めの2、3カ月の間は生活に不自由をきたすし、困るところなのだ。

犯罪の種類やシャバでの立場などによって、刑務所の中でもヒエラルキーが存在する。そんな中で、少しでも立場をよくしてくれるのは金だ。金があれば、日用品や本や雑誌を“貸す”ことができる。貸しをつくれるのだ。

テレビなどで「地獄の沙汰も金次第」と聞いたことがあるだろうが、まさにそれだ。

本を読んで「人間としての理想像」に気づく

刑務所での生活はとても過酷だ。閉鎖された空間で、ひとクセもふたクセもある連中ばかりが、ひもじい思いを抱えているのだ。ささいなことでけんかが起きる。暴行やいじめもあるし、なんとか生き抜いてもここでの貸し借りがもとで、シャバに出てから再び罪を犯すような人も多いと聞く。罪の意識がマヒして、何度も犯罪を繰り返すやつも多い。

一方で、懲罰を恐れ、悪いことを悪いと言えない自分自身とも向き合わなければならない。俺自身も肉体的にも精神的にも壊れてしまうと思った。人として扱われず、尊厳も何もかもを捨て、ただ刑務官たちの怒鳴り声に従う。刑務所はまさに地獄だった。

俺はそんな苦しい状況から何とか少しでも抜け出せないかと、本を読みまくった。救いを求めていた。そのうちに「人のためになる、それも社会の底辺にいるような人たちのためになることをする」というのが、自分の人間としての理想像だと気づいたのだ。

すると、それまで現状に苦しみばかりを感じていたのが、「出所後の未来」を考えられるようになった。「出所したら、みんなのためになる事業を興そう、それにはどんなものがあるだろうか」と想像するだけでワクワクする日々になった。

そして出所後、保護司とともに、受刑者再就職支援事業を立ち上げた。おかげさまで、数多くの感謝をされることになった。みんなのためになる事業、まさにそれを実現することができたのだ。

高山 敦(たかやま・あつし)
高校卒業後、税理士事務所に勤務した後、27歳で起業。ITバブルを見て「自分も億万長者に!」とIT関連事業に進出するために資金を集めるために始めた事業で詐欺に加担。4年7カ月の刑務所生活を送る。刑務所で人生を見直し、社会のためになることをやろうと決意。出所後、保護司とともに受刑者の社会復帰を目的とした会社を立ち上げた後、現在は、独立して元受刑者の就労支援や自身の体験をもとにした講演活動などを行っている。
(構成=館山菜穂子 写真=iStock.com)
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