少し考えればわかることですが、たくさんの人が子どもを保育園に入れたい、なかでも駅前などの便利な施設に入れたいと申請してくるわけです。誰をどの施設に入れるかは地元の市区町村が決めるのですが(お役所用語では「利用調整」といいます)、各世帯の親の勤務状態や祖父母が近くにいるかどうかなどを点数化して順位をつけ、上位者(=保育環境が、より恵まれていないとされる世帯)から希望の施設に割り振っていきます。

ただ、市区町村によっては毎年何百人、何千人単位で申し込みがあるので、右の基準だけでは同点になってしまう人が何人も出て、最後は世帯年収が低いほうに決めていることが結構あるそうです。

マンション住民が併設保育園に入れない「不都合な真実」

マンション併設の保育園は、よく雨の日も傘いらずということがセールスポイントのようにいわれるのですが、再開発タワーマンションに新規で併設された認可保育所には、そこを買って住めるような高所得世帯の子どもは誰も入れず、マンション住民は1人も通っていませんでした~なんて、笑えないような話が、現実に起こりうるわけです。

大原瞠『住みたいまちランキングの罠』(光文社新書)

知り合いの行政関係者に疑問をぶつけてみると、「いや、そういう制度だから。そもそも保育所というしくみ自体、福祉事業ですよ。貧しくて共働きをしないといけないなどの理由で、子どもの“保育に欠ける”世帯に、安くて良質な保育サービスを提供することが本来の趣旨ですから」という声が返ってきました。

最近のマンションは、開発に先立って地元の市区が、マンションデベロッパーに対して、保育所整備への協力(資金の拠出や、マンション敷地内への保育所の新設そのもの)を求めている事例が増えてきています(東京都江東区、台東区、川崎市など)。しかし、先ほどの話のとおり、たとえマンションと同じ敷地・建物に併設であっても、認可保育所ならば住民に優先権はなく、むしろ1人も入れないかもしれません。

一方で、保育所整備のためにデベロッパーが市区に払った費用は、当然マンション価格に上乗せされています。住民が確実に保育所を利用できるならともかく、間接的に整備費を負担させられたあげく、自分たちはそこを利用できないなんてことも起きうるわけです。なんとも腹立たしい話ですね。まあ、不動産業者は誰もそんな「不都合な真実」は教えてくれませんけどね。