アクセスがよく、見晴らしがいい。そして、何より特別感がある。大人にとっては最高のタワーマンション上層階だが、「子供の学びにとっては、いい環境とは思えない」と言うのが、プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんだ。年々、タワーマンション住まいの顧客が増えているなか、上層階に住む子供たちのある特徴に気づいたという――。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Marina_Poushkina)

あれ? なぜだろう?

気持ちがいいほどの真っ青な空に、真っ白な入道雲。いかにも夏の空という景色を楽しんでいる私の前にはばむようにそびえ立つタワーマンション。ずいぶん増えたなぁ。マンションではない、そこに暮らす子供たちだ。

中学受験専門のプロ家庭教師を始めて約40年。豊富な経験と指導力を自負する家庭教師の授業料は安くはない。そのためおのずと経済力のある家庭が顧客になり、経営者の家庭に訪れることが多くなった。かつては都内の高級住宅地を訪れることが多かったが、ここ数年増えているのが、都心のタワーマンションの上層階に暮らす子供の指導だ。

はじめは、たまたまだと思っていた。次第に「あれ? なぜだろう?」と思うようになった。そして今は、確信に近いものを持っている。それは、タワーマンションの上層階に暮らす子供は、成績が伸びにくいという事実だ。

足音のない床、風のない部屋

もし、今ここでエレベーターが止まってしまったらどうしよう。タワーマンションのエレベーターに乗るときは、いつも体がこわばる。Aくん(小5)の家は、都心にある55階建ての高級タワーマンションの最上階。玄関は大理石、リビングに続く廊下はふかふかのじゅうたんで、歩いても足音ひとつ聞こえない。

リビングには巨大なソファと、父親の趣味なのだろうか、高級カメラがズラリと並ぶ。天井にはゴージャスなシャンデリアが吊されているが、灯りは部屋全体に届かず、間接照明が必要だ。だが、その間接照明もムーディーな雰囲気で、とても子供が勉強できる空間ではない。大人の私でも、何だか落ち着かないのだ。

Aくんの家を訪ねたときにいつも感じるのが、住空間の違和感だ。Aくんの家は窓が開かない。タワーマンションも中層階くらいまでなら、窓が開けられ、ベランダもあるが、上層階になると危険を防ぐために、わずかしか開けることができない。そのため部屋は年中エアコンで温度調整をすることになる。窓が開かない家は、虫が入ってくる心配はないが、自然の風を感じることができないし、鳥のさえずりも聞くことができない。タワー上層階の暮らしは、子供を人間らしい当たり前の暮らしから遠ざけてしまう。