夏の終わりは、ビジネスパーソンの鬼門
8月後半は、まだまだ暑さが厳しい。「この暑さ、気だるさを忘れたいとき、何を聴くべき?」と、あるピアニストにたずねたら、彼女はきっぱりとこう言った。
「第九の第四楽章の合唱部分を聞いて、鳥肌を立てたい」
なるほど、そんなベートーベンの使い方もあるのかと、思わずメモにとった次第だが、楽曲を深く理解しているピアニストだからこそ立てられる鳥肌だ。私たちが第九を聞いて涼しくなれるとしたら、寒さが厳しい真冬を想像するくらいしか方法がない……。
さて、8月後半はビジネスパーソンにとって非常に難しい時期だ。夏の休暇が終わり、下半期に向けてエンジンを再点火しなければならないが、猛暑続きで身体に疲れが残り、心もついてこない。そんなときでも、やはり、クラシック曲があなたを助けてくれる。今回は、鬼門である「夏の終わり」を乗り切る方法として、ハイドンの楽曲をご紹介したい。
ピリッとしない心と身体に、サプライズ!
まずは、オフィスに出社したところで、気持ちを引き締めるための1曲から。デスクにバッグを置き、その足でオーディオ装置にハイドン作曲の『交響曲第94番』をセットしてほしい。仕事の邪魔にならない程度の軽めの音量でいい。第一楽章を聴きながら、暑いなぁとシャツをパタパタ仰ぐもよし、メールを開くでもよし、コーヒーを入れるのでもよし。ハイドンの94番は、あなたの朝に「軽快さ」を加えてくれる。そうこうしている間に、5、6分で第一楽章が終わる。まだ、ピリッとしないまま机に向かっていることだろう。次に、二楽章を気楽に口ずさむのがおすすめだ。弦楽器が揃って同じように「ドッドミッミソッソミ~」と軽快に流れるのをバックに、コーヒーでも飲むといい。
そんなあなたを待ち受けるのは、この二楽章に起きる驚愕の一撃である。「ドッドミッミソッソミ~」に安心しているところで突然、それは来る。
ジャン!
この交響曲の通称が「The Surprise」である理由がここにある。一気に目が醒めること受け合いだ。この大きなティンパニの音で目を覚まし、キリッと切り替わり、仕事に向かうことができる。そのあとは、もう少し音量を小さくして、午前の仕事に向かえばいい。
ハイドンの整理整頓された規則正しい音の流れは、業務を阻害することなく、あなたにそっと伴走してくれるだろう。ところが、最後の四楽章で、もう一度ティンパニの連打を繰り出し、ダメ押しの目覚ましをありがたく与えてくれる。AIスピーカーよりも細やかな心遣いである。ありがとう、ハイドン。
さて、そのハイドンとは、どのような音楽家だったのか。振り返ってみよう。