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IHで育ったから、火を見たことがない

タワーマンションの上層階で暮らしていると、風や雨の音、太陽の光が感じられないため、四季を感じにくい。国語には情景をイメージし、それを人の心に喩えることがある。でも、四季が感じられない子には、それを人の心に喩えるなんてことは到底できない。「初夏のような清々しい気持ち」と書かれていても、初夏がどんな景色でどんな匂いがするのかイメージすることができない。

季節を感じられない子は、旬の食べ物にも関心を持たない。旬の食べ物というと、有名校では慶應中等部でよく出題されるテーマだが、土いじりをしたことがないCちゃん(小2)は、理科の植物分野全般が苦手だ。じゃがいもが土の中で育つこと、きゅうりにはつるがあることを知らなかった。実際に見たことがないから興味すら沸かない。そこで、私はCちゃんプランターでゴーヤを育ててみることをすすめた。はじめは母親に水やりを任せっぱなしだったか、育っていく様子を見るうちに、少しずつ自分で世話をするようになった。それから植物への興味も見せるようになった。

高層タワーマンションのキッチンは、ガスコンロではなくIHクッキングヒーターが多い。生まれたときからIHのキッチンで育ったDくんは(小4)は、間近で火を見たことがない。家には仏壇もないので、ろうそくに火を灯したこともない。私が驚いたのは、線香を知らなかったことだ。理科の気象の単元でフラスコに線香の煙を入れて、雲ができるしくみを知る実験がある。でも、Dくんは線香を知らないため、まずは線香とは何かを説明をしなければならなかった。

子供の五感を刺激するには、最上階は……

タワーマンションの上層階に暮らす子供はすべてダメかといえば、もちろん、そんなことはない。ただ傾向として、実体験が乏しいために物事をイメージできず、理解するのに時間がかかる傾向にあるのは事実だ。

タワーマンションの上層階は価格も高く、誰でも住める場所ではない。おそらく会社の経営者だったり、医者であったりと経済的に余裕のある家庭だろう。そういう家庭は、子供の教育にも熱心なはずだが、大人の欲望を優先してしまう傾向にある。タワーマンションの上層階のつくりや間取りは、都会を楽しむ大人向けにできていて、子供が伸び伸びとすごせる場所とは言い難い。伸び伸びできないということは、物事に興味・関心を持ちにくく、学びのスイッチが入りにくい。子育てという面で見れば、やはりタワーマンションの上層階は望ましくない、というのが私の率直な意見だ。

タワーマンションの立地に捨てがたい価値を感じるのなら、子育て中はあえて階を下に変えるなど、できるだけ地上に近い環境にし、子供の五感を育ててほしいと思う。引っ越すことができないのなら、床を無垢に変えたり、大人が好むムーディーな照明を明るいものに変えたり、ガラスやメタリックの家具を手触りのいい木製にするなど、リフォームや家具の買い替えで、できるだけ自然に近い環境にしてほしい。部屋に観葉植物を置くだけでも効果はある。