なぜ、旧友の名前がすぐ出てこないのか

「私たちの脳の側頭葉の底部には紡錘状回という顔の認知にかかわる場所があります。ここは大きく、その力が強いので、誰かの顔をちらっと見ただけでも記憶に残りやすい。一方、相手の名前を覚えるのは側頭葉外側、その人と出会ったときのエピソードを記憶するのは側頭葉内側と別々の部位です。それらがつながらないと顔と名前、エピソードが一致しません」

写真=iStock.com/tonefotografia

つまり一口に記憶といっても、体験的記憶である「エピソード記憶」もあれば、名前のようにエピソード記憶から時系列性を抜き取った「意味記憶」、あるいは経験の繰り返しによって獲得される「手続き記憶」などがあって、それぞれの記憶を扱う脳の部位が違っている。だからもともと、人の顔は覚えやすいのに対して、顔と名前やエピソードをセットで記憶することは難しい作業なのだ。

「脳の機能からして、顔と名前、その人にまつわるストーリーが一致するのはせいぜい80~250人くらいまででしょう」

昔に比べると最近のほうが顔と名前が一致しなくなったという感覚を持つ人もいるだろう。だが、学生時代の友人と、今仕事上で付き合っている社内外の人との数を比べると、現在のほうが圧倒的に多いはずだ。しかも年齢が上がれば上がるほど覚えておきたい人が増えていく。関係する人の数が増えたがゆえに「顔と名前が一致しなくなった」と感じる面もあるというのだ。

▼無意識に分けられる3つの記憶の種類
側頭葉外側(意味記憶)
学習活動によって得られた知識やモノと言葉の対応などに対する記憶。
側頭葉内側(エピソード記憶)
前日の夕食の内容やイベントなど個人の体験に関わる記憶。
小脳(手続き記憶)
クルマの運転や、楽器を演奏するなど体で覚えているもの。
●人の「覚える」機能は、いくつもの記憶の組み合わせで構成されている
出典:東北大学加齢医学研究所
▼顔と名前が一致しない脳のメカニズム
覚えられるのは80~250人
顔認識と名前、エピソードの記憶は別々の部位で記憶される。すべてが一致する人数は80~250人とされる。学生時代は関わる人が少ないためほぼすべて覚えることができるが、社会人を重ねると関わる人が多くなり古い友人の記憶は消えていく。