「パン屋」が「和菓子屋」に変更

次は、やはり東京書籍(1年生)に収録された「にちようびのさんぽみち」という教材である。

この話は少年の「けんた」がおじいさんと町に散歩に出て、いろいろな出会いや発見をするというストーリーだ。この教材の修正点は、登場していた「パン屋」が「和菓子屋」に変更されたというものである。

当初の内容では、散歩をしていた「けんた」はパン屋と会話を交わすシーンがあった。

そして、よいにおいがしてくるパンやさん。
「あっ、けんたさん。」
「あれ、たけおさん。」
パンやさんは、おなじ一ねんせいのおともだちのいえでした。おいしそうなパンをかって、おみやげです。

ところが「我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつこと」という学習指導要領(対応項目は「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」)の内容が組み込まれていないという検定意見がつけられ、パン屋のくだりは次のように変更された。

そして、あまいにおいのするおかしやさん。
「うわあ、いろんないろやかたちのおかしがあるね。きれいだな。」
「これはにほんのおかしで、わがしというんだよ。あきになると、かきやくりのわがしをつくっているよ」
おみせのおにいさんがおしえてくれました。おいしそうなくりのおまんじゅうをかって、だいまんぞく。

そして、最後の一文も修正されている。修正前は「いつもとちがうさんぽみちもだいすきになりました」とあるが、修正後は「まちのことや、はじめてみたきれいなわがしのことを、もっとしりたいとおもいました」となっている。

これも「パン屋」は日本の文化ではないからダメだという話ではなく、「我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつこと」という内容が不足しているという指摘である。

修正判断は出版社によるもの

出版社側が「パン屋」と「和菓子屋」を差し替えたため、「パン屋」が問題視されたような印象を受けるが、その修正判断は、文科省ではなくあくまで出版社によるものである。

『危ない「道徳教科書」』(寺脇 研著・宝島社刊)

もっとも、パン屋か和菓子屋かという問題は、子どもたちにとって何の意味も持たない修正だろう。そもそもこの教材を読んで「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」が養われるのかという疑問がある。合格後のものを読んでもそう感じるのだから、修正前のものはもっとひどかったのだろう。

日本の伝統と文化を尊重させたいのであれば、おじいさんとの散歩の道筋を平板に辿っただけの教科書を教室で読み上げるよりも、実際に町に出て、さまざまな昔からの店がある商店街の様子や、街角にある歴史の記念碑や説明板に接するほうが、よほど効果があるのではないだろうか。こんな不十分な読み物より、「町を探険してどんな店が昔からあるか、昔はどんな町だったのかを調べましょう」と呼びかける「探険ガイド」を掲載するべきではないか。