「感謝の扱いが不適切」

まず東京書籍(4年生)に掲載された「しょうぼうだんのおじさん」である。

通学路にあるパン屋のおじさんは町の消防団員だが、ある日少年が広場を通りかかり、消防訓練に励むおじさんを見て、感謝の気持ちを抱くというストーリーである。

だが検定意見を受けてこの「おじさん」の部分は「おじいさん」に変更され、イラストも「おじさん」から「おじいさん」になった。

このような変更がなされた原因は、「感謝の扱いが不適切である」という検定意見がつけられたことによる。

学習指導要領の「感謝」の項目(3・4年生)にはこうある。

<家族など生活を支えてくれている人々や現在の生活を築いてくれた高齢者に、尊敬と感謝の気持ちをもって接すること。>

この「しょうぼうだんのおじさん」の話は「感謝」に対応したストーリーだったのだが、「高齢者」が「おじさん」だったことが問題となった。正確に言えば、文科省が「おじさん」そのものを問題視したわけではなく、「高齢者」に対応する内容がなかったことが「不適切」と判断されたのだろう。

感謝の対象を「高齢者」に限る必要があるのか

検定意見に対し、結果として出版社側が「おじいさん」に変更してその結果合格したため、「おじさん」が不適切だったのだろうと思われがちだが、それは誤解である。

検定は非常に細かく行われており、出版社側は指導要領の一字一句に目を凝らし、内容を反映することが求められるのである。

だがそもそも、学習指導要領がここであえて「高齢者」にこだわる意味が、どれほどあるのか疑問を感じる。5・6年生の「感謝」の項目は、

<日々の生活が家族や過去からの多くの人々の支え合いや助け合いで成り立っていることに感謝し、それに応えること。>

となっている。これならわかるが、3・4年生の項目だけ「高齢者」という言葉が入っている。いまの自分があるのは「現在の生活を築いてくれた高齢者」であると「高齢者」だけことさらに抜き出す必要があるのだろうか。「過去からの多くの人々」のひとりである「おじさん」に感謝してもいいではないか。「高齢者」とは法令上65歳以上を指すわけだが、3・4年生の場合64歳以下には「尊敬と感謝の気持ちをもって接」しなくてもいいかのような誤解を与えないだろうか。