「なぜ社員が定着しないのか」。この悩みに対する解決法が『1分間エンパワーメント』には書いてありました。そこには「社員のやる気がないのは経営者の責任である」と明確に記してあったのです。まさにその通りでした。

星野リゾートを大きくした一冊
『社員の力で最高のチームをつくる〈新版〉1分間エンパワーメント』
ケン・ブランチャード他共著 ダイヤモンド社 ケン・ブランチャードは『新1分間マネジャー』など共著は60冊を超え、世界累計で2100万部超を売り上げる。

星野温泉でも父の時代まで、社員は「使用人」のような扱いで「社員のやる気がないのは本人の責任」という考えだったのです。この本を読んで、経営者の役割、資質についての認識を大転換させられました。しかも、どうしたら社員のやる気を引き出せるのか、「エンパワーメント」の具体的な方法まで書かれている。「この通りにしよう」と思い、すべてそのまま実践しました。

エンパワーメントには、「情報公開」「ビジョン」「チームワーク」という3つの鍵が必要と示されています。

1つめは「情報公開」。社員は基本的に経営者を疑っています。特に中小企業はそう。「経営が厳しい」などと言いながら、社長が高い外車に乗っていたら、社員は信用することができません。「会社の経営状態について経営者と同じレベルで情報を公開し、経営者意識を持ってもらえるようにしなさい」と書いてあったので、その通りに数字を公開しました。また、顧客満足度調査の結果も出しました。通常はクレームだけを取り上げ、注意したりしますが、「クレームを伝えると社員はやる気が出ない。満足している顧客の情報を伝える方がやる気が出る」とあったので、調査のすべてを公開し、満足しているお客様の情報も見ることができるようにしました。

2つめの「ビジョン」では「社員が企業のビジョンを共有し、自分の役割は何かを理解しなければ、自律的に行動できない」とありました。そこで、「リゾート運営の達人になる」というビジョンをつくりました。「達人になる」条件は顧客満足度2.50ポイント、経常利益率20%。この両立を掲げ、ひたすらこの2つの達成を目指すと宣言しました。そして、僕自身が率先して体現するようにしました。中小企業では社員たちとの距離が近く、経営者の行動、言動、姿勢、とすべてが見られています。僕自身も実践するなかで、次第に覚悟が深まっていきました。